第34話「思い出の少女、って言い方だと美化されている気がする」
『チャットログ:ウィスパー >>ユイメリア』
ヤト >よーっす暇人
ユイメリア>うるせえ誰が暇人だ
ヤト >平日なのに真っ昼間からネトゲしてる奴はニートの暇人だって先生が言ってたぞ
ユイメリア>今の中学校は何を教えているんだ……?
義務教育の歪な変化を見てしまった気分だ……
ヤト >いや、それを言ってたのは小四のときの担任
ユイメリア>小学生に言うことじゃねえ!
あのね、お姉さんはちゃんと学校に行ってるわ
ただ授業を受けるのが面倒だったから三限からばっくれてネカフェにいるだけで
ヤト >勉強しない学生はニートと同じだろおっさん
ユイメリア>おっさんじゃねーしお姉さんだし!!
そんでもって学校ですることは勉強だけじゃねえぞ、と女子社会を生き抜いている偉大な先輩から言葉を贈っておこう
ヤト >知らんし、俺の中であんたはずっとおっさんだ
ユイメリア>小僧めが……何度もリアルで会ってるんだから、私が天下無敵の美少女だと知ってるくせによぉ
ヤト >いやあ……今の時代、大事なのは中身だと思うんだ
顔なんか見えなくても人間性をさらけ出して相性の良い奴が一番良い
ユイメリア>純真だな、ピュアピュア小僧だ
我が妹様の天使スマイルを見てもその意見を変えないでいられるかちょっと試したくなっちまったぜ
ヤト >あんた妹いたんだな
傲岸不遜でわがまま放題だから末っ子かと思ってたわ
ユイメリア>偏見だしひでえ言いようだ
私は長女だよ
まあ姉らしいこととか欠片もしてないからあんたがそう思うのも一部仕方がないかもしれないけど
ヤト >確かにあんた年中どんな時間でもゲームしてるしな
俺がいつログインしてもあんたはオンライン状態だし
家族サービスしたらどうですかい?
ユイメリア>それは子持ちのおっさんへのアドバイスだろ、私はまだぴっちぴちの女学生じゃい!
ヤト >ところで妹さんはゲームやる?
ユイメリア>お?
もしかして興味ある?
でもざんねーん、我が妹様は私らみたいなネットでしか生きられない陰キャゲーマーと違ってばっりばりのカーストトップ女王様だから、ネトゲなんてつべのクソ広告ゲーよりも認識されてませーん!
ヤト >言ってて悲しくならんか……?
あとネットでしかイキれないの間違いだろ
ユイメリア>そっちの方がダメージでかい気もするが……?
とにかく我が妹様を沼に沈めて固定を組むのは諦めろ
ヤト >バレてたか
DPS自前で用意できれば、あと一枠火力募集するだけでID周回しやすくなるのになぁ
ユイメリア>火力職なんてそこら辺にごろごろ転がってるんだから別にいいでしょ
つかIDくらい野良で適当に回せ
ユイ >どうせなら知ってる人と楽しく遊びたいだろ?
ユイメリア>野良だって楽しいと思うけど
それこそ顔の見えない相手なんだから、相性の良い人と出会えるかもしれないぜ?
ヤト >そうかもしれんが……
ほら、ちょっとおっかないじゃん?
たまに常識の通じないヤバイ人とかいるし
ユイメリア>やってる時間帯的な問題がうんたら……ってのもあるけど、そもそも野良の人間性に期待するなよって言いたい
というか、そこら辺も含めて楽しめるようになるのが大人なのさ
ヤト >なに大人ぶってるんだか
あんた、俺と三つしか違わないくせに
ユイメリア>中高生の三つは大違いだろおおおう!?
ましてや中学生から見た高校生はオトナであるはずだ!
少なくとも私はそうだった!
ヤト >そっすか……知らんけど
ユイメリア>ちっ
次会うとき覚えてろよ
舐め腐ってる中坊にお姉さんのオトナな魅力を教え込んでやるからよぉ……!
ヤト >いらんいらん
ユイメリア>ついでに妹の写真も見せてテメエの根底に眠るルッキズムを思い出させてやるぜ
ヤト >いらねえ
顔が良くても性格がドブ川なら台無しだってあんたが証明してるだろ
ユイメリア>これは性格を貶しつつ実は外見を褒めるツンデレ……!?
ヤト >うぜえ
◆ ◆ ◆
「……ユイメリア」
シャルから聞いた懐かしい名前を、
小学生時代から(レーティング諸々を無視して)悠斗がやっていたネットゲームで、友人だった少女が使っていた名前だ。
本名は知らない。
相手も悠斗の名前は知らない。あくまでゲームで繋がっていた相手だから、リアルで顔を会わせても、互いに実名を名乗ることはなかった。
彼女は悠斗のことをゲームで使っていた名前である「ヤト」と呼び、逆に悠斗は彼女のことを「ユイメリア」あるいは「ユイ」と呼んでいた。
悠斗と彼女は三つ歳が離れていて、彼女の方が上。
そして、彼女には三つ下の妹がいたらしい。
「……、まさか」
あのチャットの三日後、悠斗と彼女はリアルの某所で会い、適当に本屋やゲームショップを巡って遊んだ。その時に一枚の写真を見せられ、「あんたと同い年よ」とまで言われた。
どうして忘れていたのだろう。
どうして忘れられたのだろう?
それは、よく知る顔だった。
いいや――当時は知らなかった。
だが今は知っている。何だったら毎日見ている。「おはよう」と「おやすみ」を言い合うような関係――と言うと語弊があるが、同じ部屋で財産を共有して生活しているのもまた事実。
彼女が見せた写真に写る女の子は、今の悠斗が知っている顔よりも幾分か幼かったが――それでも、同一人物だと判断できる。
「――
地毛だという美しい金髪を持った、絶世の美少女。
ユイメリアと名乗る少女は黒髪だった。だから写真に写る金髪を見て、「なんかのゲームで作ったキャラか?」などと言った覚えがある。ユイメリアは全力で否定した後「まあ気持ちはわかる」と苦笑した。実物を見なければフィクションの存在だと誤解してしまうほどの美貌だったのだから仕方ないだろう。
「雨宮、
シャルから聞いた名前を呟く。
関係がない。……とは、思えなかった。
ユイメリア。雨宮冬木。
この二つの名前が、同一人物のものだと言うのなら――。
「……、だからって、どうする必要もないだろ」
思いがけずネトゲのフレンドの本名を知ってしまった。
だから、どうした?
……その程度の話だ。
だって、そのゲームをやっていたのは日本にいた頃。異世界に転生した悠斗は、もう二度とプレイすることはできないのだから。
「――、」
しかし。
でも。
どうしてその名前がシャルから出てきたのかが――わからない。
「………………、ユイ」
毎日、どんな時間でもゲームにいた少女。
約二年前からぱったりとログインしなくなった相棒の愛称を呟いて、悠斗は再び思考に沈む。
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