第4話 能力と身バレ
次の日の昼休み。私は自分の席で、リュックサックから大きめの弁当箱を取り出す。その傍らで、今日も一人でお弁当を食べている小杉君が私に声をかけてくる。
「陽野森、今日は友達と食べないんだな」
「う、うんちょっとね」
いつもなら伊月や何人かの友人と取る昼食も、今日は断ってきた。当たり前だけど、伊月たちにこれを食べる様子を見られたくないから。
第二の難関。私は教室の人がまばらになったのを確認し、弁当箱からあるものを取り出す。
小柄だが、若干ぷるぷるしている真っ赤な塊。
これは、私の契約者?であるホーキットちゃん(仮称)が独自の製法で作ったというトマトゼリーならぬ血ゼリー。
私が学校へ行く前、ホーキットちゃんが持ってきてくれたのだ。というかほーきっとちゃん、あんな性格で意外にもお菓子作りが得意みたい。ゼリーにしてくれてよかった。原料のままだったらあまりにも生々しくてモザイクものだったよ。
昨日、お弁当を食べたのに全くと言っていいほど満腹にならなかった理由。よく考えれば最初から分かってた話だけど、吸血鬼が食欲を満たすには血液を飲むしかないらしい。かと言って血しか食べられない、ってわけじゃないからそれは安心だ。
また、契約者以外の血を間接的にでも吸ってしまうとその人物までもが吸血鬼になってしまうらしい。私の吸血鬼としての能力はそれほど凶悪なんだとか。
じゅるり。
あ、やばい。この血ゼリーに涎まで垂らしちゃってる。
理性を利かせないと私は本能に負けてクラスを一つ崩壊させてしまうかもしれない。そんなことにならないように頑張らないと……頑張れるかな、まっ、まぁ私だし?チョチョイのちょいっていうか。
な、なんか小杉君が鼻を塞ぎながら私を見つめてる。
「ど、どうしたの……?」
「な、なんか陽野森の方が鉄臭いんだが……」
まずいぃぃぃ!!!私も異常に鉄臭さがすると思ってたら臭いが漏れてた!!
「それってもしかして……」
「へっ!?あっ、これ?これはね、トマトゼリーだよ!!」
「トマトゼリーか!」
「そうそう!私の大好物!お母さんが作ってくれたの」
危ない。寸でのところで誤魔化せたわ。ていうかさっそく見られてるじゃん!私の馬鹿!
「き、気のせいじゃないかな!?」
私は小杉くんに見られないよう教科書で勉強する素振りをしながらちびちびと血ゼリーを食した。お、おいしい。血ってこんなに美味しいんだ。いやだめだよ!理性を保たないと……
「陽野森!」
「へぐ!?」
と、誰かが私を呼ぶ声が聞こえる。
「陽野森、先生が呼んでるぞ」
「そ、そうだね!今行きます!」
小杉くんに言われてしまったので、私は食べていた血塊を弁当箱に入れて先生のところに向かった。
「陽野森、ちょっと職員室に……どうしたお前!?口が切れてるぞ!?」
「へ?あ!……」
「血が大量に!保健室行ってこい!」
「ち、違うんです……これは食用の血……じゃなくて!さらさらしたケチャップなのでトイレで拭いてきます!」
「わ、分かった……それならいいが……さらさらしたケチャップ?」
あ、危なかった〜
私はトイレで口の周りについた血を根こそぎ落としてから、職員室に向かった。
「失礼します!二年三組の陽野森小唄です!」
「おう、来たか」
私を呼びつけたのはクラス担任の高橋先生。教科は数学だ。
「呼びつけて悪いな。普通は小テスト如きで誰かを呼び出すなんてしないんだが、陽野森はちょっと別格って伝えようとして……どうした陽野森、何か辛いことでもあったか?」
「いや別になにも」
「じゃあどうしてそんな格好に……」
先生も私の髪を指摘してきた!いや当たり前でしょ!注意されない方がおかしい。
クラスメイトに気を取られすぎて先生までは気にしていなかった。うっかり。
「は、流行ってたので……」
うぅ、みんなが髪染めても私だけは黒髪でいようと気張ってた結果がこれだよ。今だって吸血鬼の本能を必死に抑えてるんだからね。吸血鬼は女子供の血をよく好むらしいけど、成り立ての私は本来なら目につく人間すべての血を狩り尽くしてるらしい。私はその衝動を必死に抑えてる。すごいと思わない?
じゅるり……美味しそう……
「ど、どうした?涎なんか垂らして。それに先生を黒毛和牛霜降りステーキ見るような目で見つめて」
やべっ!油断した隙に!
「とにかく、少なくとも、そんなに派手な髪色の生徒は学校に数人くらいしかいないぞ」
先生の指摘に反論の余地もな……いやいるんだ。
「この学校は昨今の多様性社会に配慮しているから別に髪色に関する校則はないが、地毛でないのならもう少し自重してくれ。できればもう少し暗めにできないか?」
「すみません。事情があってできません!」
あの後ドラックストアで白髪染めやなにやらを買って試したんだけど、全く効果がなかった。
「そ、そうか……ならせめてそのカラコンを……」
「それもできません!」
「お前は学校をなんだと思ってるんだ!?」
先生が怒鳴るのもごもっともすぎる……どうにかして乗り切る方法は……
「髪色はギリ許せるがカラコンは流石の先生も……」
「あの……先生……」
「ど、どうした」
「私の目、見てくれませんか?」
「目?」
私が伊月から目を逸らしたもう一つの理由。私の頼みに、先生は私の目をじっと見つめる。できれば使いたくなかったのだが、事態を切り抜けるにはこの方法しかなかった。
「じっとですとじーと」
「じっと……」
先生は気の抜けたように私の目を見続ける。そして……
「私の髪色と目の色、問題ないですよね?」
「ああどうしたんだ急に?」
さっきまで私の見た目を拘束違反だと注意していた先生も、私の問いかけに平然と返した。
ホーキットちゃんが私に教えてくれた私の吸血鬼としての能力。実は私には「大罪呪法」という七つの能力のうちの一つが備わっているらしい。それが、今先生に使った《嫉妬》の能力だ。簡単に言えば、誰かと数秒間目と目を合わせれば、その人を洗脳できるという能力。自分でもすごく怖い能力だとわかる。悪用は厳禁。
「その目はなんなんだ。先生はステーキじゃないぞ。ステーキくらいの魅力はあるというわけか?そうかそうか先生もまだ二十代後半の好青年だからな。こうやって対面するとたまに落としてしまうこともある。だがその恋は禁忌……」
ついでに「大罪呪法」を使えば使うほど私は吸血鬼としての力を強めてしまうらしい。この場も早く離れたい。
「あの、私帰っていいですか?」
「き、聞いてなかったな!まだ話は終わってないぞ」
「話?」
「お前の成績についてだ」
ギクッ!
見た目を気にしすぎて成績のことを完全に忘れていた。
「お前……次の期末どうするんだ?前回の小テストの点数だと数学は赤点確定だぞ」
「知ってます!そのために今一生懸命勉強してるんです!」
「いやわかってる!お前がいつも一生懸命勉強してるのは先生にも伝わってくる!のだが……」
「へ?」
「その……もうちょっと勉強方法を変えることはできないか?」
つまり、先生も小杉くんと同じように私が要領が悪いと言いたいのだろう。
「誰かに教えてもらうとか……もうちょっと学力を上達できるような方法を取ったら……」
「そうですね。何か方法がないか探してみます」
「その調子だ。努力は必ず実るということを忘れるなよ」
「はい!」
私は先生に一礼してその場を去った。頑張れ私!
放課後。
「小唄カラオケ行かない?」
「ごめん……今日用事があって」
「そうなんだ!じゃあまた今度誘うね」
フツーに用事はないのだけど、慣れるまで友人と何かをするのは控えた方がいいわね。はぁ……こんなに寂しい気分初めて。今になって部活に所属してないことに嬉しさを感じる。帰ろう。そう私が席を立った瞬間。
「なぁ……陽野森!」
「小杉くん?」
「い、い……一緒に帰らないか!?」
「へ?」
こんな時に限って、物珍しく小杉くんが私を誘ってきた。ど、どうしよう……小杉くんが私のこと気遣ってくれてるからだろうけど……今の私じゃ。
「ごめん……今日は……」
「いいから行くぞ」
「へ?」
小杉くんは、断ろうとした私の手を無理矢理掴んでで、教室を出て行くこうとする。
「ちょ、ちょっと!私の話聞いてた!?用事があるって言ったよね!?」
「……っ!?」
私は強引に足を止めて、小杉くんと距離を取ろうとした
いけない、それ以前に鬱憤を小杉くんで晴らそうとしてる。やっちゃいけないことだって私が一番身に染みてるはずなのにでも何を思ったのか小杉くんは、私の手を握る力を強めた。話しちゃダメっていう気持ちが伝わってくる。
「え?」
「いいから!」
待って、今日の小杉くんいつにも増してめっちゃアグレッシブ。心なしか、顔が赤くなってきた。あぁもう!手を離して欲しいはずなのに、なんで私、小杉くんと手を握ったまま……
小杉くんと私は無言で廊下を突き抜け、一階の昇降口に降りる。
だめだ、このままじゃ小杉くんに……どうにかして振り切らないと!
「あの……小杉くん……私、本当に今日は一人で帰らないと……」
「なあ、陽野森」
「は、はい!」
小杉くんは突然立ち止まり、私を振り返った。小杉くんは無言のまま、何かを切り出そうとするも、切り出せず口をもごもごさせている。
お願い!そんなにじっと私を見ないで!私の視線が無意識に小杉くんの首筋に……しかも涎まで。吸血衝動が……私を……
「お前、吸血鬼なんだろ?」
「え?」
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