暗闇だったんだ

鈴乱

第1話

暗闇だったんだ。

急に襲い掛かってきた暗闇。


大切にしていたものを奪われて、ひとりきりになった。


途方に、くれた。



私はそれに、全てを懸けていた。

それは、私の全てだった。


やるべきことをすべてこなした。

感情なんて、見てる暇なかったんだ。

自分のことなんて、構ってる場合じゃなかった。


コトが終わった後、私は部屋にひとりになった。


何かが足りない感覚。


夜も朝も分からない。


今が何時かなんて興味もない。


そんなことを知ったとて、何になるという。



生きているのか、死んでいるのか、そんなことも分からなくなってしまった。


心にぽっかり空いてしまった穴を抱えて、ただぼうっと過ごしていた。



そのうちに、ひとりに慣れて、頭の理解が追いついてくる。

涙がこぼれてくるようになった。

ただ、泣いて、泣いて、泣いた。


もうひとりなんだ。

何も我慢することなんてない。


だれも、いないんだ。

だったら、どれだけ泣いたって喚いたって、自由じゃないか。


そうだろう?


……そうだって、言ってくれよ。



抑え込んでいたものが、爆発する。

雪崩のように次から次へとあふれ出して止まらない。


悲しみも、怒りも、悔しさも、絶望も。

名前のつけられないような感情も。

ずっと抱え込んで、抑え込んで、見ないようにしていたもののすべて。


隠されていたもの、すべて。



私が、叫び出す。



本物の私が、頭を上げる。



『本当は知ってんだろ?』


声が聞こえる。


『お前は、こんなとこで折れるようなタマじゃないってよ』


挑発的な声だった。

だけど、それは、まぎれもなく「私」の声で。



声は自信満々に笑う。


『フリは、もうしなくていいぞ』


涙の跡が残る顔を上げて、笑う。



「あぁ、分かってる。フリなんて、飽き飽きだ」


私は言う。


『それでこそ、お前だ』


『さぁ、始めようぜ。本物のお前を。――本物の、人生ってやつを!』


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暗闇だったんだ 鈴乱 @sorazome

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