大嫌いな夏がはじまる…

白紙

プロローグ

夏なんて…

 考えれば考えるほど……。

 思い出せば思い出すほど……。

 記憶に残って消えない……。


 楽しかった思い出は薄れていき、「悲しい」それだけの感情が私の心を埋め尽くす。


 あの夏の日、私の目の前で起こったこと……。

 それは……、大好きな親友と初恋の人のキスシーンだった。

 重なり合っていた唇が離れた後、二人は偶然にも私の立っている方向を見る。二人の目線の先に私がいる。そのことに気が付いた二人の表情は焦っていた。その顔が忘れられないまま、今でも鮮明に覚えている。

 私はきびすを返し、その場から逃げるように走り去った。止まった思考のかわりに抑えきれないほどの感情が溢れ出す。走って、走って、走って、立ち止まって……、少し期待なんかして振り返る。「誤解だ」と言うために二人が私を追いかけてきてくれると。

 でも、そんな漫画のような話なんてあるわけなくて、二人の姿を見ることもないまま私はひとり家に帰った。

 帰宅後、自室のベッドの上……、ただ泣くことしかできなかった。「頑張って!」と応援してくれた親友も一人抱え込んで悩んでいた私を抱きしめてくれた彼も、私の前では偽りの仮面をつけて嘲笑っていたんだと、悲しくなって苦しくなって心がはち切れそうになった。


 (何事もなかったかのように、このまま海の泡になって消えてしまえればいいのに……)


 あの夏の日、私は大切な人に裏切られた……。


 夏が来るたびに思い出す……。


 夏なんて来なければいいのに、夏なんて早く終わればいいのに……。

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