第16話 目
私が宣言すると、異鏡君は目を丸くして私を見つめ返してきた。
わがままだって事はわかるし、何もできない私が何言ってんだよともなるだろう。
それでも、何でもいい。何でもいいから。私は、役に立ちたい。
必死に走って逃げているのに、テケテケとの距離は縮まるばかり。話し合っている時間はない。
それに、体力も無限ではない。私も息が切れているし、周りの七不思議さん達も恐怖や焦りも相まって呼吸が荒い。
急いで次の行動に移らないと、手遅れになる。
『わかった!!』
「っ、え?」
わかったって……、それってつまり、納得してくれたってこと?
よ、良かった、無理やりにでも外に出されるのかと思った。
『でもね、どっちにしろ。今は奥まで行ってほしいかな』
「え、なんで!?」
『テケテケは強い。でも、どれだけ強いのかはわからない。それを知る為、少しだけ手合わしないといけないんだよ。今のままの私で何とかなればいい。もし、何とかならなかったら、次の手を使うしかない』
「次の手?」
『うん!! でも、大丈夫だよ。私は死ぬ気ないし、この世界には美波ちゃんと静稀がいるんだもん。負ける訳にもいかない。だから、安心して行って、ね?』
今までと変わらない満面な笑み。そんな顔を向けられたら、私はもう頷くしかないじゃないか……。
「…………絶対に、絶対に来てね!」
『うん!! 約束だよ!!』
異鏡君が小指を立て私に見せてきた。これは、約束を守る時に使う、指切りげんまんだ。
「『指切りげんまん!!』」
指を絡め、一緒に唱える。二人の小指が離れると、異鏡君は笑顔のまま、追いかけてきているテケテケの方へと振り向いた。
『またね!!』
「うん!」
大丈夫、大丈夫。異鏡君は強いもん、絶対に、強いんだもん!!
だから、大丈夫――………
※
・・・・・・・・・・・・。
うーん。かっこつけたはいいけど、どうしようかなぁ。
『ケケケケケケケケケケッ』
『うーん。まさか、奇襲されるとは思わなかったなぁ』
私が立ち止まって刀を振るおうとした瞬間に、まさかテケテケの髪が伸びて来るなんて思わなかったよ。しかも、ピンポイントに刀を持っている右手を拘束されてしまった。
その後に腕、足、腰。体中が今、テケテケの髪に拘束されている状態。動くに動けないし、無理やり動けば髪が体に食い込んでしまう。
『ケケケケッ』
『ぐっ、ちょっと、まずいかも……』
首にまで髪が伸びてきた。このままだと冗談抜きに窒息死か、首の骨を折られてしまう。さすがに、痛いのは嫌だなぁ。
右手さえ動かす事が出来ればこんな髪くらい、切る事出来るのに。
うーーーーん、どうしようかなぁ。
…………あれ、後ろから気配?
『異鏡さん! 刀を!!!』
っ、百目だぁ!!
――――――――バッ
反射的に刀を握る手を離すと、床に落ちる前に百目が刀を手にし髪を切ってくれた。
『ケケッ……』
足を床に着け着地成功。よし、体が解放された。助かったぁ。
『まさか、戻ってきたの?』
『貴方が捕まる姿を目にしましたので。さすがに危なかったですね』
『助かったよぉ、ありがとう~』
まさか、美波ちゃん達と一緒に逃げていたと思っていた百目が戻ってきてくれたなんて。
百目には戦闘能力はないけど、補助は頼めるし。私の目となってくれれば、互角に渡り合えるかもしれない。
『──百目、私の目となり死角を無くせ。絶対に奥へと行かせるな』
刀を持ち直し、髪を操り私達を見ているテケテケを見据える。片手で持ち、刃先を向けた。
『了解しました』
百目が頷くと、髪で隠された右目を顕に。そこには真紅の瞳が隠されていた。
流れるようにその場にしゃがみ、床へ手を着く。すると、壁や床、天井などに閉じられた目が現れた。
これが、百目の力。死角をなくし、相手を捉え続ける。私と百目の視覚をリンクさせ、テケテケの姿を逃がさない。
『悪いけど、どんなに有名な都市伝説だったとしても、ここは私の世界だ。ここでは私に従って貰う。それが出来ないのであれば、今すぐ立ち去ってもらうよ』
目を細めテケテケを見るが、反応は変わらず。もしかしたら、言葉が通じないのかもしれないな。なら、やっぱりやるしかない。
────テケテケを切り、抹消させる。
『ケケケケケケケケケケケケッ!!!』
先程と同じように、テケテケが私に向けて真っ直ぐ、黒い髪を放った。
後ろには百目、避ければターゲットが百目になるか。
刀を振り上げ、立てに切る。次に横、斜め。全方向から迫ってきている髪を、次々切る。
…………切っても切っても、髪が直ぐに再生して意味は無さそうだな。
『異鏡さん! 私の事は気にせず、攻めてください』
『っ、わかった!』
百目が言うのなら、大丈夫。百目は、自分が大丈夫だと思ったことしか言わない。
後ろはもう気にしない。そうすれば、髪を掻い潜ってテケテケに近付くのなんて容易い。
近づくことが出来れば、テケテケの首を斬って終わりだ。
姿勢を低くし、刀を両手で握り直す。
目の前には、逃げ場がないほど向かってきている黒い髪。私の視界が黒に染る。
でも、問題ないよ。
百目の目が、全てを映す。全てはもう、私達の視界の中だ。
『行くよ』
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