豹変

第11話 王子様とお姫様

 名前を伝え合った日から毎晩、三時から五時までの二時間は、異鏡君と静稀の二人と一緒に過ごしていた。


 私の世界について話したり、異鏡君の住んでいる世界について聞いたり。あとは、静稀と異鏡君の話を聞いたり。


 二人はこの世ならざる者について詳しい。話が弾んでいるのがわかるし、楽しそうなのが私も見ているだけでわかる。


 二人の知識は異なっているからこそなんだろうけどなぁ。

 それぞれ、違うジャンルに詳しいから、それでお互いの知識交換と言った名目もあるのかも。


『今日は何の話をしようか!!』

「今日はこんなものを持ってきたよ」


 いつもお話だけではと思って、今日はあるものを持ってきた。


「じゃーん!! これって知ってる?」

『なぁに、それ』


 私が持ってきたのは一冊の本。本当はゲームとかを持ってこれたら良かったんだけど、私は買ってもらえなかったから持ってないんだよね。


 これは、私が少ないお小遣いを溜めて唯一買えた、大事な本。


「これは、私の宝物なの。一人ぼっちのお姫様に、一人の村人が手を伸ばし、救う話だよ」

『村人? 王子じゃないの?』

「うん、村人。王子様は確かに素敵だけど、私は村人の方に惹かれたの」

『なんで? 出来る事が少ないし、位が違い過ぎるじゃん。私でも知っているよ? お姫様は王子様とじゃないと合わないんでしょ?』

「確かにそうかもしれないけど、私はそんな常識、嫌だなぁ」


 だって、釣り合う釣り合わないで左右されてしまったら、一人ぼっちのお姫様はずっと一人ぼっちだよ。


 一人ぼっちになるには理由がある。この本に出てくるお姫様は、周りの人達に容姿を馬鹿にされ、閉じ込められてしまった。

 ずっと一人で居ることを、周りの人は強要した。そんな環境に慣れてしまったお姫様は心が死んでしまい、何も出来なくなってしまった。


 でも、この人を見つけてくれる人はいた。その人は、ただの村人。位も何もない、ただの平民。


 そんな人が、お姫様に手を伸ばし救ってあげた。


 私はそんなお姫様が羨ましい。私にも手を伸ばしてくれる人が来ないかと、願ってしまう。


 無駄な願いなんだろうけど。


『…………それ、読み聞かせてよ』

「え?」

『私、その話が気になる。見た感じ数ページだし、数分で読み終わるでしょ? 気になるから聞きたい』

「でも、自分のペースで読んだ方が楽しくない?」

『君の声で聞きたいの、駄目?』


 上目遣いで言われたら、頷くしかない。


 弟が居たらこんな感じ? 花子ちゃんの前だとお兄ちゃんみたいだけど、私の前だと無邪気に笑うから弟のように見える。可愛いなぁ。


「ふふっ、わかったよ」

『っ!』


 あ、思わず頭を撫でてしまった。どうしようこれ、手を引くタイミングがない。


「…………早く、読んだ方が良くないか? 時間が押しているぞ」

「あ、うん」


 静稀に言われたタイミングで本を開き、読み始めた。


 感情をできるだけ込めないと。この本の素敵さを異鏡君に伝えたいから。


 ※


 むかしむかし、ひとりぼっちのお姫様が居ました。

 お姫様は生まれた時から顔に黒い痣があり、周りから嫌がられていました。


『こんな醜い子、私の子ではありません』


『ごめんなさい、ごめんなさい』


 母親に暴言を吐かれたお姫様は、謝ってばかり。少しでも認めてもらいたいと思い、お姫様は部屋の掃除を頑張っていました。


 他にもお皿洗いもしていました。ですが、そんな彼女を認める人は現れません。


 それでも諦めず、周りに認められようと頑張ったお姫様は、とうとう体が限界となり、倒れてしまいました。


 痣が彼女の体を蝕んでいると考えた人達は、感染を恐れ、お姫様を地下室へと閉じ込めてしまいました。


 地下室には何もなく、唯一敷かれている薄い白い布の上で生活をしていました。

 体は細くなり、肌は荒れ。お姫様はどんどん弱っていきます。


 ────このまま、死んでしまうのね。


 涙を流し、目を閉じたお姫様。白い布が涙で濡れた時、お姫様にとっての光が現れました。


『大丈夫ですか!?』


 地下室に現れたのは、お城に雇われていた村人。地下室の鍵を開け、中に入りお姫様を助けました。


 命の灯が切れる直前で救いだされたお姫様は、助けてくれた村人に恋をしました。



 体が治った時、またしても地下室へと入れ込まれたお姫様。また、村人が助けに来てくれることを願い続けました。


 何日も、何日も。お姫様は願い続けました。お姫様にとっての、素敵な王子様が来てくれることを。


 でも、王子様が現れる事はなく、またしてもお姫様は病気になってしまいました。


 床に伏せることが多くなったお姫様は、それでも願い続けました。


 涙を流し、願い続けました。


 願いながら目を閉じた時、鍵が開く音が聞こえました。そこには、願い続けた村人が、お姫様に手を伸ばす姿がありました。


『一緒に行こう?』


 お姫様は先程より大粒の涙を流しながら、差し出されている手を握りました。


 村人とお姫様はお城を追放されましたが、今までより幸せそうな顔を浮かべる二人は、誰よりも美しく、幸せな生活を送る事が出来ましたとさ。


 ※


「――――めでたしめでたし」

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