第9話 怒り

「なぁ、俺も質問していいか?」


 静稀が私の前に出て、手を挙げた。


『うん、君も面白いし、いいよ。答えられる事なら全部答えるよ!』

「なら、まず。なんで今になって助けに出てくれたんだ? 昨日から俺達を見ていただろ」

『あ、やっぱりバレていたんだ』

「微かな気配を天井から感じていた。お前なんだろ?」

『うん!』


 え、そ、そうなの? 招待人、私達といたの? しかも、昨日から? 


 あ、だから静稀は天井を意識していたのか。焦りを見せなかったのも、近くに招待人がいたからなのかな。


「なんで、今更助けたんだ? 美波が死にかけたからか?」

『そうだね。せっかく面白い人を見つけたのに、死んじゃったら嫌だもん』

「そうかよ」


 いや、静稀、それで納得いくの? 面白い人と言われたんだよ? 私。なんとなく腑に落ちないんだけど。


「もう一つ質問するな。お前は何者だ?」


 っえ、二回目がそこ? 急に大きな質問をするなぁ、静稀よ。


『私は、望む人を望む異世界に送る、異世界への招待人。それ以上でも以下でもないよ?』

「ただの招待人が、あんな化け物を簡単に切る事が出来るのか? それに、お前の気配は、どの七不思議とも違う。……いや、気配が違うはおかしいか。今のお前からは気配を全く感じない。鏡の中から姿を現した時は感じたのに」

『あぁ、なるほど。それなら答えられるよ。鏡から姿を現す時は、意図的に気配を出しているの。その方が雰囲気を楽しむことが出来るでしょ?』


 刀を鞘に戻しながらなんてことないように言う招待人。雰囲気とか拘るタイプなの? ニコニコしながら答えているから本気なのかどうか分からないけど……。


 なんか、読めないなぁ。異世界への招待人……。


「なら、普段のお前は今みたいに一切気配を感じないのか?」

『君が感じていないならそうなんじゃないかな。正直、気配を出すことは意図的に出来るけど、消す事は出来ないんだよ。だから、私ではわかんない』

「なるほど。質問ばかりで申し訳ないが、最後に答えてくれ。さっき話していた”領域”ってなんだ?」


 そういえば、さっき化け物を斬った時に言っていたな。


 "領域"って、一体何だろう。ここは自分の縄張りだから侵入者を許さないとかいう意味かな。


『ここは、私が作り出している空間なの。言い換えれば、今君達がいるこの場も、普段君達が過ごしている空間から見ると異世界に値するよ』

「ん?」

『わかんないかぁ。んー……。今まで君達が生活していた世界。今いる君達の世界。この二つの世界は別世界ってこと。異世界への招待は、現状も行われているんだよ』


 え、っと? つまり? 


 今まで私達が普通に学校行ったり、友達と遊んだりしていた世界と、今静稀達や花子さん、招待人がいるこの学校は違う世界。


 私達は、この学校の中に入り込んだ時点で、招待人の力が発動。私は異世界へと飛ばされているって事?


 頭がパンクしそう。でも、こんな考えで合っているはず。


「なるほど。だから、この世界はお前の領域という訳か。お前が作り出した世界だから、主導権はお前にあると」

『そういう事。でも、さすがに規模が大きすぎるから穴があるんだよね。だから、今みたいに気性の荒い子が侵入してきちゃうの。亀裂を利用してね』

「なんとなく理解出来た。お前を敵に回してはいけないという事も…………」


 あ、静稀がげんなりとした顔で招待人を見ている。


 確かに今の話では、この場所を牛耳っているのは招待人だってことだもんね。

 彼の機嫌を損なわせてしまえば、私達は何されるかわからない。


 今の私達は、招待人の手のひらの上。簡単に握りつぶされるという事か。


 そりゃ、うん。げんなりもするよ、怖いって……。


『でも、私は君達に何かすることはしないよ?』

「え、そうなの?」

『うん。だって、君達は花子の髪飾りを一緒に探してくれたでしょ? だから、何もしない。逆にお礼をしないと』

「でも、見つけられていない…………」

『それなんだけどね』


 言いながら、招待人がポケットの中をまさぐり始めた……まさか?


『じゃーーーーん!! 実は、私が持っていましたぁ~』


 満面な笑みでほざく招待人、おい!!


「それって、私達の動きを見て楽しむために……。もしかして花子ちゃんもぐるっ――て、訳ではなさそう」


 花子ちゃんが招待人を見上げて驚いている。


 大きく口を開けて唖然している顔も可愛いけど、元々白かった顔がさらに真っ青だよ? 大丈夫?


『お、おお、おにいちゃんのばかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!!!』


 花子ちゃんが叫ぶと、学校が揺れ始めた!? もしかして、これが花子ちゃんの力!?


『え、そこまで怒るの?』

「いや、当たり前でしょ!? あんなに必死に探していたのに、隠していたなんて酷い!! 私達は死にかけたのに!!」

『いや、結局助けたし』

「そんなの関係ない!!!」


 って、水の音??


 招待人の奥を見ると、何かが迫ってきているような……あれって…………!?


「み、みずぅぅぅぅぅぅぅぅぅうぅぅううううう!?!?」

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