第3話 時間

 夜中、スマホを片手に私と静稀は今、桜川中学校の校門前に二人でいる。

 お互い、動きやすい服装の半袖長ズボン。静稀は陰陽道具をいつも入れているウエストポーチを持ってきていた。


「マジで学校に侵入するつもりか?」

「ここまで来て引き返すなんて絶対に嫌よ!! 私は絶対に見たいの、異世界への招待人さんを!!」

「なんでそこまでこだわるんだ? トイレの花子さんとかを確認した時なんて、一回試してすぐに諦めていたじゃねぇか」

「あれはあれ、これはこれ。気配を感じるのなら、噂が本当だって可能性はある!!」

「なんで俺まで…………」

「何かあった時、助けてほしいのよ。私は霊感も何もない、ただの一般中学生だし」

「ただの一般中学生は、七不思議を確認したいがために夜中の学校に忍び込むなんて言う非行には走りません」


 そんなことを言われてもなぁ。だって、二十八回も試しているのに成果なしなんて、負けたような感じで嫌じゃん。


「ひとまず、一階にある女子トイレの鍵は開けてあるからさっそく入ろう」

「マジで行くのかよぉ……」

「行く!!」


 静稀の言葉を無視して、校門を乗り越える。そのまま目的地である女子トイレに移動。

 一瞬、静稀が中に入るのを躊躇していたけど、私が無理やり入れて今は学校の廊下を二人で歩いていた。


 二人分の足音が廊下に響いて、若干怖い。辺りは暗いし、スマホの電気だけでは心もとないよぉ。


「少し、肌寒いな」

「う、うん、さすがに夏だからって油断した。上着持ってくれば良かったよ」

「俺も」


 これで風邪をひいてしまったらどうしよう。先生に気づかれないように行動しないといけないな。


「ところで、招待人が本当にいたら異世界に連れてかれるんだろう? それって大丈夫なのか?」

「そのための陰陽師じゃん」

「分野が違うんだ、勘弁してくれ…………」


 えぇ、それじゃ何のために静稀を呼んだのか分かんないじゃん。


 そんな事を話していると、噂の鏡に到着。

 鏡の前に立つと、私と静稀の二人が映り込む。他に映っているのは後ろの壁くらい。


 夜というだけで、なんでこんなにも不気味に見えるんだろう、今まで見ていた鏡と同じなのに。


 鏡に触れてみると、ひんやりと冷たい。体の芯まで冷たくなりそう……。氷を触っているみたい。


「時間はまだ大丈夫なのか?」

「うん、まだあと五分あるよ」

「時間に余裕持っていてよかったな」

「ゆっくり準備が出来るね」


 スマホの画面を確認すると、四時四十分。このまま鏡の前で待機していれば、会えるはず。学校で噂になっている七不思議、"異世界への招待人"。


 今まで花子さんとか十三階段とかを試してきたけど、一度も出会えたことはない。今度こそ、絶対に出会ってやる!


「なぁ、俺は噂について特に詳しくないんだが、お前は聞いたことあるか? 異世界に連れていかれた後の話」

「あぁ、そういえば。……ない、かも。連れていかれるってところで私も終わってる。でも、他の話でもそういう感じじゃない? 花子さんもベートーヴェンも。現れて終わり、この後何が起きるのか、連れていかれた後どうなるんかは聞いたことないよ」

「ふーん」

「興味ないじゃん…………」


 そっぽ向くくらいなら最初から聞かないでよ!


「ほれ、あと一分」

「はいはい!!」


 スマホの画面を確認すると、四十三分。鏡の前に立っていた方がよさそう。


 静稀を端に追いやり、鏡の中心に立つ。ラフな格好をしている私が鏡に映り込んだ。このまま時間になるのを待てば、異世界への招待人が姿を現すはず。


 残り、三十秒。


「っ、美波。本当に大丈夫か? 気配がどんどん強くなっているような気がするんだが」

「え、マジ?」


 残り、十秒。


「………これ、まずい、こっちに来い!!!」

「え? きゃぁ!」


 静稀に腕を引っ張られた時には、スマホの画面は残り一秒に――………



 キラリと光る鏡、スマホの時計がちょうど四時四十四分に、な、った。

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