異世界への招待人

噂の真実

第2話 時間ミス

 私、高瀬美波たかせみなは今、学校指定の制服を来て鏡の前に立っていた。


 腕時計が指している時間は、四時四十三分。

 目の前には、学校内で噂になっている、階段の踊り場にある大きな鏡が私を映していた。


 よしっ、噂を試す準備は整った。

 腕時計を再度確認すると、あともう少しで四十四分。


 あと、五、四、三、二、一、…………


 四十四分になった!! さぁ、来い!! 噂の、異世界への招待人!!!!


 シーーーーーーーーーーーーーーーーン


「……………………またかよ!!!!!!」


 えっと、今日で通算二十八回目。

 噂の招待人は現れなかった…………と。


 なんで!! なんでなのさ!! 

 噂を聞いてからずっと試しているのに、一度も招待人が現れない。


何か間違えているのかな。

でも、何回も友達や先輩に確認しているし、手順や時間は間違いないと思うんだけど…………


「うーーん、うーん!!」


「またやってんのか? あきねぇなぁ」


「あ、静稀しずき


「鏡越しに挨拶すんな」


 私が落ち込んでいると、鏡にもう一人、男子が映し出された。

 その人は、同じクラスの竹島静稀たけじましずき


 明るい茶髪に、制服を着崩しているチャラ男と呼ばれそうな見た目。


 なんでそんなに派手にしているのか一度聞いたことがあるんだけど、「動きやすい」の一言で終わってしまった。


 でも、静稀の生活環境から考えると「確かに」と、納得出来てしまったのだ。


 静稀は陰陽師おんみょうじの家庭に生まれたみたいで、法力ほうりき? とかって呼ばれる物を使い、あやかしとかを退治できるらしい。


 親から言われて、お札を常に持ち歩いている。

 私も一度本物を見せてもらったけど、普通の長方形の紙だった。


 見た目はチャラくて軽い印象なんだけど、静稀は竹島家の中でトップクラスの法力を持っていると話していた。


 すごい人なんだなってことはわかったけど、なぜか静稀は嫌そうな顔を浮かべていた。

 というより、気まずそうって感じだった。


聞きすぎると嫌かなって思って、深くは聞かなかったけれど、なんとなく気になるなぁ。


「んで結局、今回も現れなかったと」


「うん」


「いい加減、諦めたらどうだ?」


「でも、静稀はこの鏡から、なんか変な気配を感じているんでしょ?」


「まぁ……」


「なら、その気配がどんなものかを確認しなければ、私は夜しか眠れないよ!!」


「昔は昼間も余裕で寝ていたもんな。確かに夜しか寝れていないお前は、少しおかしいかもしれない」


 何となく引っ掛かりがある言い方だけど、いいや。


 私の頭をぐしゃぐしゃと撫でている静稀とは幼馴染で、幼稚園、小学校、中学校と。ずっと一緒に行動して来た。


 今は中学二年生、来年になれば高校の受験が控えているから、出来れば今年でこの噂について確認したいところ。


「つーか、ずっと言わなかったことがあるんだが、いいか?」


「え、何?」


「お前、いつも放課後の四時四十四分で噂を試しているだろ?」


「うん」


「お前が試している時間って、厳密に言えば、十六時四十四分な。噂の四時四十四分ではないんだよ。だから、招待人とやらが現れないんじゃないか?」


「……………………?」


 え、待って。


 アナログ腕時計を確認すると、確かに時間は四時四十四分。

 でも、制服のポケットの中に入れていたスマホの画面を確認すると、時刻は十六時四十四分。


 時間、間違えて、た?


 ……………………。


「もっと早くに教えてよぉぉぉおおおおおおおおお!!!!!!!!」

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