29

「こう暗いんじゃ、何もできないね。一眠りするよ、雲が去ってから話をしよう」

スカイはこてんと眠ってしまった。

 赤い空が帰ってきた。窓から入ってきた深紅の光が、スカイをすっぽりと包みこんだ。

二人は神々しいほどの眩さに襲われた。

「殺してやるぞ、きっとやってやる」

グレーはぶつぶつ言いながら、両腕に力を込めてみるが、スカイの呼吸は少しも乱れないままだ。

「ん、おはよう。どうしたの?死んだと思ったの?」

スカイは無邪気に微笑むのだった。


スカイの目の前には、今まで何度も頭の中で見てきたグレーの姿があった。

何度も追体験してきたグレーの感情、心が目の前にあった。

ああ本当に僕は、君の世界に来たんだ。これで君を助けてあげられる。

やっと。


 二人の人間が向かい合っている。一人は悪魔のように鋭い目つきで、もう一人は天使のように優しい微笑みを向けている。

「君ってさ、なんかかっこいいよね。歴戦の戦士みたいで」

後者がなんの悪気もなく言ったことで、前者が激怒する。二人の会話は今までずっとそんな様子だ。

「次同じことを言ったら八つ裂きにするぞ」

グレーが、イメージを思いきり睨んだ。


・・・ここでイメージがぶつんと途切れた。

グレーは意識が戻ったと同時に思いきり息を吸った。今までがまるで酸欠だったかのように頭が痛んだ。

「俺は、眠っていたのか・・・?」

もう一度スカイの額に手を置いてみるも、何も起こらない。

今のは一体、なんだったのだろう。

スカイの細い腕に触れた。まだ心臓がどくどく音を立てている。

スカイの額に手を置いたことで、不思議なイメージを見た。きっかけはスカイとの接触だ。そう思った時、考えがふわりと浮かんだ。まさか、先程のイメージは、

「スカイの、記憶?」

ささやきが漏れた。

イメージから生えていた手は、スカイのもの?

イメージの視点の主は、スカイなのか?

スカイも戦場にいたと言うことなのか?そしてグレーが狂ったように戦っていたことも、グレーがあの少年を看取ったところも、側で見ていた?

いや、わからない。

しかし、一番わからないのは、母がイメージをグレーの本名で呼び、イメージがそれに応えていたことだ。そして微妙に自分の記憶とくいちがっていることだ。


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