27

眠ったように目を閉じているグレーの頭の中で、一つのイメージが生命を持ったかのように動き始めていた。それはだんだん広がっていく。イメージという器の中には世界があって、何か幻想的な色合いの空が存在していた。夢を見ているような感覚だ。それがなんなのか探ろうとしたが、視界を自分が操ることはできず、ただ目の前の光景を見ているしかできない。

しばらくすると、そこが海であることがわかった。こんがりと焼かれたような色の砂浜が、白い泡と透明な波に食われて、ゆらゆらしている。グレーは、その場所を知っていた。自分の故郷の町の海で見た、景色そのものだったのだ。

イメージは勝手に振り返った。視界も振り返る。遠くの砂浜に、腕を組む夫婦が映った。ぼんやりしていた輪郭がゆっくりと露わになる。一人は穏やかに微笑む女性、もう一人は面白そうにこちらの様子を伺う男性だ。グレーはその二人を、知っていた。おそらく、世界で一番に知っていた。


グレーの指先がピクピクと痙攣する。目は未だ開かないが、混乱して眉間が歪んだ。

 

急にイメージに手が生えた。視界の人物のものであろう白い手は、夫婦に向かって思いきり振られる。

「テッド!波に気をつけて!」

夫婦は振り返してくる。

イメージは再び海の方を向いて、歩いていく。目も開けていられないほどの夕焼けが、海の緑と一緒になってグレーを覆った。イメージが海へと近づいていく。小さな足が波の中で砂を踏む。なんの感覚もしないけれど、居心地の良さを感じた。ここにずっといたいような安心感があった。

しかしそう感じた時、イメージの中身が変わってきたことに気づいた。


赤い空、その中で飛び交う飛行機の銃弾。焼け野原のように何もない場所で、大勢の兵士達が殺し合っている。人間の顔をしている奴なんて、誰一人いなかった。

そしてその中に、まだらな赤い髪の青年がいた。グレーはその後ろ姿に見覚え、というか、不思議な縁のようなものを感じて、見入っている。イメージも、どこにも向かおうともせずにその青年がいる辺りにじっと目を向けている。青年は、獣のような咆哮をあげて、敵に襲いかかっている。相手が死んでも攻撃をやめないその姿は、本能的にぞくりとするものがあった。

赤いまだらの髪色は不自然だった。それは敵に血を流させるごとに増えていく。

「返せ!返せ!」

その青年は何かを叫んでいた。グレーの思考が止まった。どこかで聞いたことのある・・・いや、絶対に知っている声だ。ふと、イメージが青年に向けて手を伸ばした。イメージが青年の元へよろよろ歩いて近づいていく。

飛んでくる弾丸も、爆弾も、イメージにはまるで関係ないらしく、全てがイメージの身体を避けていく。青年の後ろ姿まであと一メートルほどというところで、イメージは再び止まった。グレーはもうその頃には、顔面蒼白になっていた。知っているのだ。この青年を。心の中でうめく。青年が同じ歳ぐらいの少年兵の頭を銃の角でぶん殴った。少年兵は血を吐いて倒れ、赤が青年の白かったはずの髪や汚れた軍服にばしゃりとかかった。鮮血はまるで絵の具のように、青年の身体中にまとわりついていた。

イメージがびくんと身を震わせたのがわかった。グレーは、爆発しそうな鼓動に耐えながら、青年がゆっくりと振り返るのを見つめた。

自分だ。


 目の奥でばちばちと火花が散った。

イメージの風景ががらりと変わる。


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