26
【真実】
肺炎患者のようだ。必死に息を吸おうとするのに、その動きはから回って、息ができない自分をさらに苦しめている。
グレーはベッドの中のスカイの横顔を、そんな風に思いながら見つめていた。丁度世界の終わりのような嵐が、窓の外で轟々と丘にがなっていた。
「寒くないか?何か、温かいものでも」
作ろうか、と言いかけるところでグレーはとめた。スカイはグレーの存在に気づいていないようだったからだ。グレーは、自分の声がやけに弱々しく名前を呼んでいるのに気づき、これではだめだと思った。ただでさえスカイがこんななのに、自分まで弱々しくってどうするんだ。
彼が元通りに元気になって目覚めてくれるまで、自分がしっかりしなければ。
窓にガタンと何かが当たった。風の重みで飛ばされた、木の枝だった。その音は決して銃声には似ていなかったのだけれど、グレーの不安を表に出すには十分だった。思わず頭を両手で守ってベッドの影に身を隠す。
少しして体勢を戻し、苦しそうなスカイが見えた時、グレーは過度に怯える自分のことが少しバカらしく思えた。
灯りもない部屋の中は、嵐が強くなるにつれて少しずつ暗くなっていく。グレーの視界にモノクロのフィルターがかかったように、全てが冷たく映った。
そっとスカイの額に手を当てる。繊細なつくりの指先が前髪を触った。スカイの額は火傷しそうなほど熱を持っていて、ヒヤリとした。そのまま、さするように撫でた。スカイが目を覚ますことはなかった。
天使様の羽を与えたのはもう一週間ほど前のことだ。本当にスカイは元通りになるのだろうか。わからない。わからなくて何もできないことと、わかっていて何もできないこと、どちらの方が辛いのだろうとぼんやり考える。
指先でスカイの額を白い髪越しに、もう一度撫でた。すると、ぱちぱちと弾けるような、小さな衝撃を感じた。ビクッとして手を離した。
今のは、気のせいか?
痛いまではいかないが、何か、静電気が指の先に通るような感覚。グレーは恐る恐る、再びスカイの額に指を近づける。胸の内を不安がざわざわと掻き立てた。白い髪と接触する。
しかし、何も起こらなかった。軽く安堵して、スカイの熱を測ろうとした。
その直後、グレーは思いもよらなかった感覚に襲われた。それは言うなれば押し潰されそうな重圧だった。掌から入りこんだ電撃が、身体中を一気に駆け抜けた。
「―――――っっっ!」
雪崩のような耳鳴りが脳内を掻き回す。視界が何十にも重なって、今自分が座っているはずの車椅子さえも認識できなくなる。身体から力が失われていった。そして首が、抵抗する間もなくがっくりと落ちた。
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