19
あれから、リンネにスカイの体調のことを相談すると、彼女は様々な珍薬や本を持ってきてくれた。しかし何を試しても一向にスカイの具合は良くはならず、むしろ一日ごとに悪化している気がした。
青白いスカイの顔を再び見下ろして、奥歯がおれてしまいそうなほどグッと噛み締めた。
「なぜ」が頭の中一杯に広まっていく。答えがどこにもないような気さえして、グレーは身震いする。このまま何もしなければスカイは朽ち果ててしまう。あの真っ直ぐな笑顔に心を絆される瞬間が、永遠に失われてしまう。
「・・・しかし、天使の羽を与えれば助かるなんて。それが本当だとしても、一体どうすれば」
グレーは長らく戦場にいたためか、嫌な勘だけは優れている。嫌なものばかり、見えてしまう。スカイの胸が浅い呼吸ばかり繰り返している様子は、以前の彼に比べてしまうとあまりにも痛々しかったが、グレーは目を背けなかった。
その時、換気のためと思って開け放していた窓から、白い光のかけらが舞い落ちてきた。グレーは車椅子を進めて、そのかけらを手のひらに閉じ込めた。ただ、きれいなものを何の気もなしに手に取ったというだけであった。
しかしそれがちゃんと目に映ると、グレーは血相を変えて外へ飛び出した。
淡い光を放つ白いかけらが羽の形をしている、ように見えた。
グレーは晩秋の冷たい風を感じた。振り向けば後方の森はまだ赤や黄色に染まっている。グレーは辺りを見渡した。一匹の雌鹿が森の紅葉の下で、周囲を見回し続けているグレーを不思議そうに見つめた。
「はずれだな、面倒臭い」
ち、と小さく冷たい舌打ちが聞こえた。女性とも少年ともつかないその声は、悪意を剥き出していながらも、神秘的な音楽のように美しかった。その声はちょうど家の角を曲がった先から聞こえて、グレーは凍りついた。少女のものであるらしい白く細い腿が、角から二本横に突き出ていたのだ。
「途中、何か邪魔者が入ったが、あれが貴様の恋人か?」
少女の腿がぴくりと動く。か細い声が、申し訳ありません、と告げる。グレーは家の壁にぴったりと車椅子をつけ、聞き耳を立てる。少女に問うているらしい人物は、どうやら少女の肩を足で踏みつけているようだ。家の角から見て肩の辺りの場所で、みし、と骨が音を立てた。
「約束を守ってやったのに。清い魂だったから目をかけてやったのに」
少女が枯れた喉で呻く。何が行われているのか、グレーは想像するのも悍ましかった。
「ここの人間のように良い捧げ物となると思ったのに。腹が立つ」
グレーの心臓が、塊に打たれたようにどくんと波打つ。
今こいつはなんと言った?
ここの人間と同様?
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