17
水晶が白く濁り始めた。周りの老人達が息を呑む音がする。みんな水晶の中を注視している。グレーが顔を上げると、水晶の中にスカイの姿が浮かび上がった。ベッドの中で青白い顔をしている。
「・・・彼か、スカイというのは」
老爺はグレーを見つめる。緊迫した空気があたりに立ち込める。老爺は胸の中で、「なるほどな」と呟く。
「どうも、このスカイ君には特別なところがあるようじゃな。とびきり優しく、清い心を持っている」
「そんなことは知ってる。スカイを助ける方法を聞いてるんだ」
老爺は嫌な顔をした。そして嫌味をグレーにぶつける。「お前はスカイ君とは正反対じゃな。皮肉なものよ」。
そして静かになった。水晶からスカイの姿が、かき消される。
老爺は、低い声で言った。
「率直に言おう。スカイ君を助ける方法は、この世界にはない」
グレーは痛みに胸を抉られる。スカイの小さな体つきがなぜか思い出されて、恐ろしさのあまり吐き気がする。
「そんな、じゃあスカイは、このまま」
急に寒さを感じる。グレーの頬に冷や汗が流れていた。
「罪人であるが故、天使様に魂を奪われて天に召されても、天国にも地獄にも行けぬ」
グレーは、泣き叫びたい衝動に襲われた。
「何が、天使だよ・・・ッ!なあ、なんであいつが死ななくちゃならないんだ!?あいつは、死んじゃいけない。俺みたいなのが生き残って、なんで、また・・・」
グレーは車椅子を動かして老爺に近づく。老人達が非難する目でこちらを睨んでいる。下手をすれば、自分の身も危ういかも知れないが、今のグレーに自分の身を案じる余裕はなかった。
スカイの色んな表情を思い出す。彼は色んな感情を持っている。スカイが泣くと、グレーはどうにかして笑顔にしなければならないと思う。スカイが笑うと、なぜだか故郷を思い出す。「あったかい」、「穏やか」そんなものと心が繋がるような気がする。
それが、崩れる。
壊れる、息をしなくなる、あの少年みたいになる。
「・・・・・・」
また大事な人が遠ざかっていく。
小刻みに震えているグレーに、老爺が声をかけた。
「この世界には、ないと言ったのだ。最後まで人の話は聞くものじゃよ」
言葉も発せないグレーに、老爺は語りかけていく。
「お前が信じようが信じまいが勝手じゃが、一つだけ方法はある。スカイ君を、人間で無くしてしまうことだ。天使様は人間の魂しか刈ることができないからな」
老爺の声は、重々しかった。グレーの心の腐った部分に直に触れているように響いてくる。
「何を、言ってるんだ。人間じゃなくなったら一体何になるっていうんだ」
もはやグレーの声には何一つ気力が残っていない。
「天使様の羽・・・片翼でいいが、それを与える。さすれば、スカイ君は人間ではなくなる。片翼なので天使でもないが、な」
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