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 腐った匂いが鼻にこびりついて取れなくなった。銃撃のシャワーがまだ耳の中で残っている。今でも夢の中に戦場が現れる。特別な約束をした友の死体が、目の前に出現する。彼はとびきり心を許せる少年だった。幼い頃人間の友がいなかったために、その出会いを神が与えてくれたものと信じていた。

「ぐ、れー・・・」

 声はほとんど掠れていた。

まだ髪が黒かった頃、いつも隣にいたあの少年。戦う恐怖に怯えながらも、移動時間などの些細な隙間に、故郷や世間話で普通に笑い合うことができた二人だった。その少年の名は、グレーといった。

 テッドとグレーは、軍の中でも不思議がられるほど仲が良かった。テッドは同情心が強く心優しい少年だったし、グレーは自由で個性的な少年だった。テッドの父親に少し似ていた。

背の小さく、赤毛だったグレーはよく隊長や少尉に悪戯を仕掛けた。それがいつも見事にバレないので、他の少年たちも愉快でたまらなかった。しかし出会って一年も経たないまま、あの日はやってきてしまった。

「なんだよ、震えてるのか?」

土で作られた塹壕の中で、グレーが囁いてきた。テッドは空を見上げる。前から銃撃の音が溢れ続けている。

「誰だって、怖いでしょ。戦争なんだもん」

グレーには、テッドの両手がぷるぷる震えていることが薄暗い壕の中でもはっきりと見えた。そしてふふんと鼻で笑って、泥まみれの手でテッドの頬をつねった。戦場にあるまじき笑い声と愉快な悲鳴が反響した。小突きあっていると、テッドの震えは少し緩まる。

「何弱気になってんだよ。俺たちは勝利するんだぜ」

突撃準備、始め!という隊長の怒鳴り声は、響いてくる戦争の重音でかき消されそうだった。あと5分で突入するサインだ。

二人は両腕にしっかりと銃のベルトを巻き付け、ヘルメットを被り直しながら囁き合った。

「だけど、君は残れるだろうけど、僕は・・・」

今度はグレーも本気で怒った顔をした。テッドの、ヘルメットからはみ出している後ろ髪を半ば乱暴にぐしゃぐしゃと乱して、いつになく真剣に、ゆっくりと囁いた。

「二人で、生きて、帰るんだ」

グレーの長いまつ毛まで一本ずつ見えるような距離で、テッドは生唾を飲み込んだが、不思議と恐怖は弱まっていた。


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