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じゅうじゅうと肉の焼ける音がする。リンネが、器用に牛肉を炒めているのだ。キッチンのガスコンロに着火した際から、スカイは何やら熱心にメモを取っていた。今も炒め続けるリンネの隣で目を輝かせている。二人の後ろ姿を、グレーはテーブル越しに眺めていた。
「どうぞ」
それから数分後、テーブルの上に、ほかほかと湯気の立った料理がとんと置かれた。カゴの中にあった牛肉と、ピーマンとを甘辛く絡めて炒めた料理だ、とリンネは遠慮がちに説明した。スカイは感激していた。彼は些細なことにも心を動かすことができる人である。
グレーの細い腕がぴくりと反応した。認めたくはなかったのだが、グレーの目は皿に釘付けだった。彼は自身の右手でスプーンを持った。麻痺しているのでやはりまだ満足には動かない。それでも自分で食べたいのだ。例え痛くとも、冷や汗が流れようとも。
がぷり、と肉にかぶりついた。うまいと脳みそが歌う。そんな喜びは、遠い昔のことだった。
二人は無言で食べ続けるグレーを、まるで子に対するような瞳で見守った。不思議と、リンネの表情から恐怖が消えていた。冷たい目をするグレーだが、根っからの悪人とはどこかが違うような気がしたのだった。
リンネの助言や手伝いのおかげで、スカイの家事は以前に比べて格段に上手くなった。家の中も以
前のように片付いてきて、それに掃除までされて清潔になったので、グレーの文句は少し減った。
グレーは眠るのが恐ろしかった。そもそも夜自体が恐ろしかった。夜になると、目が見えない暗闇の部分から、自分が殺めた生き物達の蠢く手が、押し寄せてくるような錯覚を覚えた。
とある春の終わりの晩も、グレーは窓辺でぼんやりしていた。スカイはいつもの通り、窓の左側のベッドですやすや眠っている。グレーはその、どこにも苦のなさそうな安らかな寝顔を見て、羨ましく感じたと共に、スカイの存在が遠いものに感じた。窓の向こうには森がある。ほとんど黒のような深い緑の木々が身を寄せ合っている。そこには鹿の親子も恋人同士の兎もリスの兄弟もいて、みんな心で繋がっている。グレーの頭にそんな想像がぽっと生まれた。かつて自分にも、そんな存在が確かにいたことを思った。胸の奥の弱気な部分が、きゅっと締めつけられる。
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