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天の最上、最も気高く壮麗な所に、その存在は座位している。再び雲が辺りを覆うと、世界には天使様とその存在しかなくなったかのように思われた。ぴんと張り詰めた静けさと、畏怖すべき空気が絡み合う。
「ただいま戻りました」
なんとか声が震えないようにして、泣きそうな笑みでその存在を見上げた。笑顔は些か病的だった。
あまりにも巨大で何にも敵わない程強大なその存在は、神様だった。
「ご苦労だった。さぞかし疲れただろう」
神様が厚く頼もしい掌を広げた。天使様は胸の中が噴火したように熱くなって、目を背けた。自分の中の蛇をどうにかして鎮める必要があった。
「苦労など。私は従者ですので」
天ではなく、あなたの。そんなことを口走りそうになる。神様の、穏やかでいて大きなただずまいも、優しい声も、掌も、その全てが人類にも開かれていると思うと、歯軋りしたい気分だった。
「どうすれば人間全員が幸せになれるのだろう?」
神様にそう尋ねられて、顔には出さなかったが嫌な気になった。神様にではなく、神様との神聖な会話の中にまで入りこんでくる人間の存在に対してだ。天使様は、人間を落ちている塵と同じ目で見る。神様のために自分も扱っているだけであって、ただの愚かな生き物としか思っていないのだ。
「なぜあんな生き物をまだ気にしておられるのです?あんな、過去から学ぼうともしない、愚かな者達のことを」
天使様の胸の中にあるのは人間への嫌悪感だけなのか。そうではなかった。確かに、焼けつくような苛立ちがあった。俗に言う嫉妬心だ。
清さの象徴ともいうべき特別な存在、【神】を、ただの個として欲と結びつけてしまう自分がいることに、天使様は気づいている。しかしそれが表に出て、神様に軽蔑されることだけは、何があっても避けたかった。
神様は首を横に振ると、諭すように囁いた。
「人間には確かに愚かで危なっかしいところがある。しかし、それと同時に素晴らしい力を持っているのだよ。時には、私の及ばないような底力も」
天使様の苛立ちは、頂点に達した。
「貴方様がそのようなことをおっしゃってはなりません。人間が貴方様に勝るなど、天地が裂けてもあり得ないのです」
熱を押し付けた言葉は、荘厳な空気にひびを入れた。天使様の蛇が再び蠢いた。それは、私だけの存在でいてほしい、私だけを見てほしいと咽び泣いていた。
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