ぐっどないと、過去の〇〇

 ダベリジャと例の漢字少女、メルティが戦う姿が見えた。

 二人共素手で拳を合わせる図は力強いものを感じる。

 スポーツの試合みたいな空気感に近いものだ。


「加勢した方が良さそうっスね……ダベリジャの体勢が崩れかけてるっス」

「北風、いけるか?」

「多分いけるっス!」


 空を切る様に合わさる拳の中、彼女はわざと力を抜いてふっと下がる。

 正面に向けられた拳を受け流そうと腕を掴むが、石の様に硬いせいか失敗してしまう。


「うわぁっ!?」

「何だあれ、人にしては硬すぎるな」

「あの人に邪魔されて魔法が使えないわ。どうすれば……」


「石化最高、石化最高、初代万歳!!」


 初代という事はセガートの力だというのは予想できるが、大地の力を操っている時の奇術とは全く違う物な気がする。体自体が石化しているというか、既に死んでいるみたいな様子に近いというか……直感がそう言っているだけで、本当はどうなのか全く分からないが、何か危険な予感がする。


「ご主人、この人危険な予感がするっス」

「力勝負だと俺は何も出来ないが、石化の解除なら俺も出来るかもしれない。しばらく耐えてくれ。ダベリジャ、加勢出来るか」

「二人で戦うの慣れてないけど分かったわ!」


 自身を強くする魔法を解除するのは慣れていないが、出来る。

 大量に付いたリボンを解いて元に戻すイメージで魔力を流せば多分……だが、禁術の解除となると、それで合っているのか分からない。解除できないかもしれない。

 とにかくやってみるしかなさそうだ。


「…………どうだ!?」

「やれてないっス! 体と魂が分離してるみたいな感じで……体は戻ったので拘束するのは出来るっスよ」

「拘束するなら壁の一部としてくっつけられるわ!」


 彼女が手を組んで目を閉じると、小星の形をした十二面体の白い模型が散って流れ星になる。流れ星が消えると壁から手が生え、メルティを掴んで壁に沈めさせた。


「こんな感じなんスね……」

「北風、念の為にダベリジャを守ってくれ! 俺はマズルカの方に行ってくる」

「はいっス! ……えっ。自分この人に抱きつかれるんスか──」


■■■


──金星、上空。

 金色の髪が空で動き回っていて綺麗な光景に見えるが、周りに飛んでいた神格が誰一人見えない。魂を抜かれているみたいに抜け殻で、何も応じない。


「あぁー! メルティちゃん幽体離脱してるよ!」

「感謝。吾、三途ノ川観測直前」


「二対一、私だけじゃ限界があるかもな……」

「加勢が必要な気がしたんだが気のせいか?」

「……ありがとう」

「しんみりするには早すぎるな。ダベリジャが祈りきるまでの時間、稼ぐぜ」

「そうだな」


 マズルカはライフルを構え、スコープを付けて遠くに離れる。

 街頭を槍の様に扱うスカルチャの前に立つメルティが真っ先に近づいてきたので、反射で日本刀と鞘を創り出す。


「俺が前線行くの久々すぎてかわせる自信ないぞ……!」

Needニード toトゥ Guiltyギルティ


 星屑に銃弾を当てて立ち入り禁止のテープを作ると、通過する様にして攻撃を回避した。直後、金縛りに遭いながらマズルカの手元に移動する。これが彼の魔法だ。


「助かった」

「回復の手間がかかる。捌ける自信は」

「……微妙」

「分かった。二人で耐えきるぞ」


 存在を無くせられればこちらの勝利であり、死傷を受ければ負けるだろう。

 長い時間攻撃を耐えられればいい。それだけなのに、手が震えている。


「信じろ。救われずとも私が居る」

「神頼みなんてしゃくだけどな!」


 一息吐き、手を握り直す。


 小さく吐いて、 もっと吐いて、 軽く吸う。

 薄い酸素と灰色の煙を口に留め、目線を上げた。


Deadデッド Copyコピー


■■■


──黒いサングラスが白く光る。

 祈りの力が強まり、光は少しづつ強くなっていく。


「ご主人大丈夫かな……」

「二人ならきっと生き残れるわ」

「凄い自信っスね。眩しい人っス」

「未来が強い闇に満ちていても、一点だけでも、光はあると思うのよ!」


 肌を柔らかく撫でてくれそうな柔らかさに、純粋な心の光が眩く光っている。

 素敵な心の持ち主なのだと口に出さなくても自覚している。

 こんな光を放つ魂があるのは、ご主人に育てられたからだろう。


「そろそろ叶えられそうね」

「これで終わるんスね」


■■■


 小刻みに息を吐く。

 全員体を動かすのも限界で、飛ぶにも背中が重くなってしまう。


 ふと、空を見上げた。


 今日も星は輝いていて、

 真っ暗で、目を閉じれば明日になっていそうで、

 星が流れている。


「……ダベリジャ、終わったのか」


 ふと二人の方を見ると、霧みたいに霞む姿が見えた、と同時に。

 地面が崩れて足場が無くなっていく事に気づく。


「マズルカまずいぞ、一旦ここから離 れて……」


 悪あがきなのか安心したからなのか、膝に力が入らない。

 死んでしまうのか? と脳裏に浮かぶ。

 だが今回は、なぜか気持ちがいい。


 月を背にして死ぬ姿なんて 最高じゃないか!


──黒いシルエットになった手を伸ばし、意識が飛んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る