綺麗事でなくてもいい②
北風はマズルカを傷つけたショックを受けて立ち尽くす。そんな事したくなかったのだと分かる。どんな声を掛けても両親が邪魔するのではないかと思い、ダベリジャに任せて俺は話した。
「吾、貴殿等行、善行意見ト聞。
「私達からしたらお前のやってる事は邪魔なんだってー」
「翻訳助かる。だが、こんな事が起きてるのはお前さん達に問題があるからじゃないか?」
「私等はこの世界から戦いを無くす為、世界の観測をする『実験』を行なっている」
「吾、実験結果ニ『特殊海域』有。結果、大陸間ノ戦争、減少確認済」
「実際僕が作った『レガート家』は、世界の常識の軌道を修正するのに丁度良かった。そこの失敗作は何の成果も残さなかったが」
特殊海域を創ったのが彼らだという驚きはあるが、それよりも北風を貶した事が許せない。俺を煽る為に言い放ったのだと考えて怒りを抑えていると、マズルカが前に立って言い放つ。
「争いは絶えない。私は昔から何度もそう言った」
「「……」」
「これは私の一意見だが、争いも対立も、それ自体悪ではなく、かと言って善でもないと考えている」
北風はマズルカの意見に頷いて小さく呟く。
自分という存在が居なければ俺という人に会えず、俺を守り、尽くす事も出来ず、何も残らない無の一面だけが広がるままだったと。
小さな幸せを教えてくれて、嫌だなって思う事も教えられる事は無かった、と。
「争いに第三者が手を入れる時点でメリットが無い。旧世界を見てそれに気づけた筈だ。当事者のみで解決する筈の世界に獣人を入れ、軽蔑の視線を受けさせたのはそちら側だろう。最初から介入する必要は無かった」
ダベリジャが北風をハグして大事そうにしているのが見えた。
そうではない人も居るのだと必死に訴えているのかもしれないが、子供がテディベアを抱き抱えているみたいでちょっと可愛い。
「ふぇ……ちょっと苦しいっス……」
「ダベリジャ。分かったから落ち着いてくれ」
「うん……」
「それを踏まえ、私は意志を変える気は無い。計画は実行する」
「「…………」」
マズルカは数十名の神格を呼び出し、ライフルを構える。
離れられるのは今が最後だぞ、と彼が耳打ちしたので、俺は北風の腕を引いて背を向けた。
■■■
北風を連れて走ると、出口の前で立ち止まった。
「ご主人、あの」
「どうしたんだ」
「自分、思い出したら不満が色々と……」
「……戦いに行くのか」
「はいっス……両親が死ぬ前に、自分が言いたかった事まだあって」
「生き残れるか分からなくても?」
「自分が死ぬ前に伝えたいんス」
「……絶対死ぬなよ」
「はいっス!」
■■■
北風は俺を背に乗せて走り出す。
向こうから聞こえる音は、神格の足音と銃声、幽霊達の嘆く声だった。
阿鼻叫喚やら、怨念の声やら、混ざり合って黒い海みたいな空と地面が出来上がる。現世に戻る前に見た幽世みたいだ。
だが、流星群みたいに光る星々が強く光っては無くなっているのが見える。
「アレ綺麗っスね! ご主人!」
「ダベリジャだな。両親の存在消す前に会いに行くぞ!」
■■■
──壊れた城の前まで戻った。
戦況はやや神格側が有利で、魔力も全体的に尽きていない。だが技量は向こうのほうが上手だろうと思うので勝てるかどうかはまだ不明。
「ご主人、援護頼むっス!」
「任せろよ。足場でも武器でも何でも作れるぜ」
強く地面を蹴り出して飛び出すと、セガートの左肩を狙って掴む。
彼は振り向くと同時に右ストレートを突き出す。容赦も無く向けられた拳を避けられる余裕もなく、彼は地面に突き落とされた。
「イスカトーレ……!!」
「パパ、自分はご主人からローレンの名前を貰うのを報告しに来たっス!」
「「……はぁ!?」」
俺と北風の父が声を荒げて驚く。
そんな話前から聞いていなかったし、それらしい意志を見せていた感じは見ていなかった。まず俺が北風に釣り合えるとかそういうのがだな──
「ご主人もういいっス!逃げるっスよ!!」
「待て待て待て、どういう事だよ。何一つ意味がわからないぞ」
「……セガート」
「フレット。正直な所、パパはマズルカの研究データを盗むが目的だから、この争いに参加する必要は無い。ママはどう思う? 僕と役割も気にせず自由に暮らす子供の観察でもする?」
「スカルちゃんとお茶したかったけど、フレットが居なくなるなら仕方ないね」
「えっと、マジで満更でもなさそうな空気感できてるんだが……俺まだOK出してない……」
北風の両親はマズルカの研究資料がどこにあるか聞いてきたので、呆然としながら指を指すと、有り難く一礼してその方向に行ってしまった。
写真残しておいてよとか、おすすめの旅行先あったら教えてねとか言い残して。
「北風、アレは策略だな? 二人も敵を減らせて俺は安心した。よくやった」
「あぁいや、本気っスよ」
「………………」
何ともこう、叫びたい気分だ。
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