綺麗事でなくてもいい①
──ちょっとした気持ちだった。
俺が魔法を扱える様になってきた頃、何か面白いものがあるかとマズルカの部屋で探し物をしていた。明確にコレを見つけたいって訳じゃな方から、直感なんて無視して何でも開けて探して。
「これは……」
大量の紙の中に、見た事ない資料を見てな。
目的、理論、実験方法・結果、考察の項目があって、何かの実験をする資料だとわかった。理論は長文すぎて分からないから、実験方法と結果だけ目を通すと、凄い事に気づく。
「新種族の作成……!?」
しかも、見た所獣人にとても似ている。獣の耳と尻尾。今見ると背中に毛皮があるといった相違点はあるが、殆どは全く同じだ。
「こっちは神格の作り方と育て方……。あっ、これは」
何かを表す記章が棚の奥に隠れていたから、かっこいいなとそれを引っ張り出していたら──
「遼、それは私の……」
「あ……」
目が合ってしまった。
お咎めは無かったが、とても悲しい顔をしていたのを覚えている。
何故この場所を作っているのかと聞くと、詳しく話してくれた。
「詳しく話せないが……その、凄い研究者だったんだ」
獣人って本当に作れたのか!? モフモフしてカッコよかった!?
と昔は輝かしい目で見ていたが、今考えればクレシャルフ家にいたと思う。
実際にそうだと答えられた事はないが。
「研究者のグループは皆同じ内容の実験をしないといけなかった」
「どういう内容だったんだ?」
「争いをすぐに終わらせる為の実験だった。平和を得るには争いを起こさないが一番だと思うのにな……」
「俺だったら全員寝かせて争い自体止めるな」
「まぁ、そういう事の為に実験をしていた。だが私が行っていた実験はその内容に合ってないと言われてな。なら、その研究者ごと消して平穏に生きる為の方法を見つけ出したいと思ってここを作った」
そして作り出した物が『終末計画』というものだった。
神格が信仰を増やし力を蓄え、クレシャルフ家の存在を全て無くすという規模が大きな物で。その為に星々を操って願いを叶える人を作り出した。
──それが彼女、ダベリジャ・ピットボスという少女だった。
彼女はとてもわがままな性格で、願っても叶えたり叶えなかったりする。
知能も低かったから目先の願いを叶えやすかったな。
ドーナッツ100個とか、サイダーでできたプールとか。
無邪気で可愛らしい彼女がそんな計画の為に動いてくれるとは思えない。
だから、出来るだけ彼女の力を借りないまま終わらせたくて色々と手伝った。
神格を増やして育てたり、魔法の新しい扱い方を皆で考えたり。
そして、今準備が揃ったのか彼女に声を掛けたのだと思う。
■■■■
「願いを何でも……ご主人の手料理一生分とかお願いできるっスかね!?」
「それなら出来るな。っていうか俺に頼まないんだな……」
「ご主人が疲れちゃうっスから」
「助かるが……もっとこう、デカいのは無いのか? 世界征服とか、億万長者とか」
「自分はそこまで大きな事するよりも、ご主人と暮らしたいっス」
……可愛げのある奴だなと痛感する。
「クレシャルフ家が居なくなったら、グレイスの時みたいな事件が無くなるかもしれないんスよね?」
「そうだろうな。何より、神格絡みの問題も無くなるだろうし」
「マズルカの目指していた物が実現して、神格が要らなくなるんスね」
全て終わったら、彼はどうするのか気になる。
ダベリジャは美味しいお菓子を見つけて、楽しい場所を作って暮らしたいと言ってたが。
……今は考えない方が良さそうだ。
「ダベリジャと話が終わった。やっと、計画を実行できる」
「星幾つ破壊しても良いのよね? いつでも出来るわ!」
「ニスト」
「なんだよ」
「……計画に参加しない代わりに、終わった時の為に食事を用意してくれないか。あの美味しい味を、もう 一度。味わい たいんだ」
油断をしていたせいで全く警戒していなかった。
武器を構える前に、マズルカの首を飛ばした相手に疑う言葉しか向けられない。
「きたかぜ?」
「あ、あの、身体が勝手に動いて、自分はやりたくないんスけど、その」
「ニスト。誰かが操ってるに決まっている。魔力の出処を掴め」
飛ばされた首を寄せて立ち上がると、マズルカはその場所に銃弾を一発当てる。
煙を手で払ってこちらを向く姿が一つ、群青色の長い髪をした女性が現れた。
「イスカトーレ、まだ生きてたの!?」
「ママ……」
「「ママ!?」」
三つ編みしてるのが似ているくらいしか近い点が無いぞ。
北風を操ったのに誰だったのか分からない魔法……嫌な予感がするな。
「こほん。スカルと友達連れてきて。出来ればセガートも」
「ここにー。うわ、スカルちゃん殺した奴いるじゃん」
「
「メルティ。意見よりも先に自己紹介だよ」
「さしぶりー、スカルチャだよー」
「吾輩名前『
「レガート家初代の人、セガート・クレシャルフ。ごめんねイスカトーレ、生きてるからそうなるんだよ」
役者が全員揃ってしまった。
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