思い出に浸る③

「聞いて欲しい北風。兄さんの心の耐性が無くなってきている」

「それを唐突に言われても信じられないっスよ」

「立ち話も何だ、座って話でもしよう」


 二人共武器を持っていなかったので黙って席に着いた。

 それで耳にした事は思い当たりがある事実ばかりで。


「元々心が壊れきっていた……?」

「そこから無理矢理回復させて、人並みに生きれる様にしたのがあの状態だ」

「彼の言っている通りだ。私は使える分の技術を尽くして定期的にチェックを行っていたんだが、ある日私の元から抜け出してしまった」


 いきなり言われても理解しきれないし、理解はしても納得したくない。

 大量の魔道具を持っているのにも合点がいくし、数週間前の姿を見ればわかる。

 でも、あんなに自分に夢を見せてくれた人が大きな傷を隠し続けていたのは……。


「このまま放置したらどうなるんスか」

「分からない。心を完全に閉ざしてしまうのは間違いないと思うが」

「治せるならお願いしたいっス。ご主人が嫌なら自分も着いていくんで……」

「元からそのつもりだ」


 自分に包み隠さず伝えて欲しかったけれど、そうしたらご主人を守るのに体力を使わないといけないと本人が考えていただろう。仕方ないのかな……

 ご主人を抱きかかえてマズルカに着いていくと、星々が見える綺麗な景色が見えて

 いつの間にか今居る場所、金星と呼ばれる場所に居た。


■■■■

 

「ん……」

「ご主人 起きれたっスか!!」

「北風か……?」


 優しさを入れられても寝起きの機嫌は悪いままで安心した。

 眉間が寄って人差し指を乗せたくなる。


「……タバコ頂戴」

「ココ禁煙らしいっスよ。代わりに自分の指でも吸ってて下さいっス」

「ん」


「お礼は無くても良いが、私は何を見せられているんだ??」


 彼は気にも留めず自分の薬指を軽く吸っている。

『周りから見たら気持ち悪いだろうけど、喫煙OKにしない方が悪いね』

 と彼が表情ひとつ変えずに語るのが面白い。


「マズルカさん、ご主人に代わってお礼言わせて貰うっス。ありがとうっス」

「敵対してた相手だ。親しくしない方がそいつに嫌われにくいと思う」

「ご主人に嬉しかったらありがとうって躾けられてるんで」

「北風がピュアすぎんだよ。それで、俺をメンテナンスだけの意味でここに連れていくとは思わないが」


 振っている尻尾を手で軽く払って抑えられた。

 むぅ。


「相変わらず冗談が通じないな。……ダベリジャは覚えているか」

「勿論。何かあったのか」

「拘束具を外したのだが、彼女が話を聞かない。助けてほしい」


 目を丸くして数秒固まった後、少し考えて頷く。

 拘束具って言ってるから獣人かな? としか考えられない。

 でも女性で拘束具が必要な人って中々聞かないなぁ。どんな人だろ。


「マズルカ、台本用意するから覚えてくれ」

「はぁ」

「ご主人の事だから何か凄い内容が……! って……」


……なにこれ。

 

■■■■


──お嬢様が住んでいそうな素敵なお城だ。

 建物の雰囲気に合わせる為に真っ白なのか知らないけど、白い城で綺麗。

 ご主人は入り口の大きな扉をノックして挨拶してみる。


「ダリ。俺だ、ニストだ。お友達連れてきたぜ」

「北風っス。こんにちは……」


 何も帰ってこない。ご立腹?らしい。

 それじゃ台本道理にと耳打ちをすると、彼は商品を見せた。


「何か売っているのか」


「安いよー! 国産養殖生『ちくわぶ』安いよー!」

「ちくわぶは加工品だが?」


「1つ買えばもう1個! 3個で3倍の値段だ!」

「お得じゃないのかよ」


「今なら3つで3個食べられる!」

「それが普通なんだが??」


 俺もマズルカも、真剣に凄くしょうもないコントを続ける。

──にしても。乗ってくれるのは予想外だった。

 しかもツッコミしながら笑っている姿に驚きが隠せない。

 夢の中での発言は本当だったのか?


 何も見えない透明な壁の向こうから笑い声が聞こえた。

 ダベリジャだな。笑いのツボが変わっていなくて安心した。


「マズルカ、後は頼んだ」

「自分達は着いていかなくていいんスか?」

「良いんだよ。何がしたいか分かるし」


「でも、ちょっと気になるっスよ。自分は事情知らないんで興味しかないっス」

「じゃあちょっと昔の話でもするか」

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