思い出に浸る②

 朝食を摂ろうと席に着く。

 今も普通に座れるのに違和感があるが、仕方ない事だと割り切った。


「何か言いたそうだな。どうしたんだ?」

「北風は今近くにいないか……食べ終わってから少し話がしたいんだ」

「効率優先のお前さんがそんな事言うとはな。急いで食べた方が良さそうか?」

「お兄ちゃんが驚く重要な案件だから。それに、お兄ちゃんがご飯食べてる姿見る機会無いし」

「なら、いくらでも見ていれば良いんじゃないか」


──と言っているが 嘘だ。

 食べている姿を身内に見られるのはかなり嫌になる。

 他人なら別に気にしない。身内だからこそ嫌いだ。


 俺を見る位なら、えて嫌な顔でもしてやった方が良いのか?

 美味しそうに感じながら食べると胃が逆流したみたいな気持ちにされる。


 さてどんな表情を……あ。ご飯無くなってた。


「……ご馳走様。それで何があったんだ?」

「北風の一家と役割、知ってるよね」

「レガート絡みの案件か。関わったら面倒な奴に俺は触れたくないぜ?」

「面倒な奴の中の一番ヤバいのが関係しているかもしれないんだよ」


「は?」


 一拍置いて、タバコに火を付ける。

 俺は北風の家族がどんだけ危険な奴らか知らないまま保護したんだ。

 巻き込まれて死ねだなんて言われる筋合いは無い。


 北風……本名、レガート・イスカトーレに関係する『レガート家』という存在について、グレイスから数秒後一言耳にしただけで嫌な予感は当たっていた。


『幽世に繋げる為に遺体を処理して一部を食べる』


 よく食えるなあんな物。

 逆流していた気持ちがヤニと共に一気に具現化した。


「お兄ちゃん大丈夫!?床掃除するね……」

「続けてくれ」


 正直聞きたくないが、この際一気に聞いておこう。

──それで出てきたのが全部危険な内容だった。


・DNAのデータが途切れている

・獣人にはある筈の獣の遺伝子が無い

・初代に関する情報が一切出てこない


……何が言いたいのか予想できて、二箱目のタバコを開けた。


「誰か、多分初代の人が遺伝子操作旧世界の技術を知った上で禁術に手を出した可能性がある」

「裏でクレシャルフ家が絡んでいるとでも言いたいのかよ。それで? 北風は追放されたと本人が言ってたってのに何する気なんだ?」


「………………兄さん」

「反対だ」


 新人類、旧人類(神格)、クレシャルフ家。

 三つ巴の現在にレガート家、北風が敵になるかもしれない……

 そんな物信じたくない。あの金髪マズルカに誓ってでもだ。


「俺は敵を減らす為にあいつの元から離れた。やったら戻ったも同然だ、俺は反対する」

「なら警戒して欲しい。俺は兄さんを殺そうとしたら許さないから」

「帰る。北風を殺すだなんて反対だからな!」

 

 思いっきり扉を開けると、目の前に例の金髪が出てきた。

 ので 速攻で閉じた。


「お前が呼んだのか?」

「……話を持ちかけられたんだ。俺のせいなんだけど、あそこに居るのは知らない」

「…………」


 数センチ扉を開けて息を吹きかけると咳払いをして手で仰いでいた。

 幻覚じゃない。今日は運が良くないらしい。


■■■■


「髪真っ赤だが大丈夫か……?」

「朝なのにもう三箱目なんだよ」


「──遼」

「偽名で呼んでくれ。何?」

「ニスト。メンテナンスしないと身体に問題が出るから戻って欲しい」

「とか言って俺に忘却弾撃った人がいる訳だが」


 神器を持ってきていないから警戒する必要は無いが、立て続けに最悪な事が起きているせいで警戒せざるを得ない。北風。助けてくれ。


「大体な、俺は身体に支障なんて──」


「『畳』」

「……兄さん?」


「『へり』、埋まり切った『食卓』、冷え切った『食事』」


 景色が増えていく。

 髪の先から力が抜けて、思い出していく。


「歩いた所にだけ残る薄い『埃』。見上げても『視線』だけがこちらを向く」


Deadデッド Copyコピー!!」


 自分の姿を怒りで思い出させ、吐き出した煙から有刺鉄線を作り出す。

 鉄線を喉に近づけても視線をこちらに向け続けて喋り続けたが、

 全て思い出した頃には恐怖だけが残っていた。


「グレイス、客の準備をしておけ。それで提供した情報分の対価は十分だ」

「わかりました。……お兄ちゃんごめんね。北風も連れておくから」

「灰皿用意しとけよ。マズルカ殴る為に、使うからな……」


■■■■


──夢で見た景色と同じだ。やけに明るい景色と暖かすぎる部屋のセット。

 パチリと目を開けたら北風の柔らかい毛並みが迎えてくれた。


「ご主人、落ち着いたっスか!?」

「…………」


「起きたばかりだ。慈愛を混ぜた包容の包みが胃の中に溶け切るまで待って欲しい」

「優しさを詰め込んだ修復剤らしいっスね。落ち着いてきたっスか」


 声は聞き取れるが、思った通りに声が出せない。

 じっと見ているだけで手も伸ばせない。


「強制的に連れてきてしまって申し訳ない」

「大丈夫っスよ。詳しい話はグレイスから聞いたんで……」


■■■■


 遡る事二時間前。

 倒れたご主人とグレイス、マズルカの三人が見えて

 同時に大量の油っぽい匂いと魔力のキツい匂いがして察せた。


「ご主人に何させたんスか」

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