「終末計画は実行される」
思い出に浸る①
──実に綺麗で酷い夢だ。
見慣れている昔の部屋の中で
俺の本名をバラし、心も体の調子も乱し、
例の件から仲間を心配性気味にさせた原因が目の前で立っている。
「これは俺に意図的に見せている夢なのか? マズルカ」
「そうだ。夢に干渉はできても現実に影響を起こすのは出来ないのは知っているだろ」
「そんくらい知ってるけどな、また嫌がらせしに来たんじゃないかと思ってだな……」
「今回は私が気分で行う事だ。嫌なら離れていい」
そう言って片腕で軽く体を包まれた。
振り解けばすぐに離れられるくらいの力だった。
彼が解くまで止めなかったが、結構長い。
「何がしたいんだ?」
「心に寄り添いたいだけだ。本当に気まぐれで、嫌なら離れても良いと言っている」
「そうかよ。──にしても長いな、俺が恋しいのか?」
自虐的にしながらも冗談を含ませて聞いてみたが、彼は哀しい表情で沈黙を貫く。
冗談だったつもりが本当だったらしい。
「…………ま、夢の中だし好きにすれば良いと思うけどな」
「なら、次にコレを食べて欲しい」
机の上にあった取り皿を見せてきた。……肉じゃが。
本当に寄り添いたいだけなら、食べて率直に味を教えればいいだろう。
だが、美味そうに見えてゲテモノになってる可能性も──…………うまっ。
「本を訳しながら何回も作ってみたんだが……口に合っているか?」
「とても美味い」
「本当か。良かった」
人間の仲間と呼べる神格は、俺とマズルカ以外にそれらしき人はいない。
人の見た目でも無機物さを感じるせいで人肌が恋しいのも仕方がないだろう。
マズルカに尊敬はしていないが、俺を両親から離した事だけは感謝している。
「……ん、後ろにあるのは失敗品か? 一口いただくぜ」
「あ、あああ……それは食感が、それは味が──」
「何だよコレ! 傑作だな。珪藻土とか砂利見たいで面白れえ」
「食べなくてもいいんだぞ。本当に、あぁ……あー……」
情け無い顔で心配そうに見ている。
そんな物お構い無しに平らげて、過去最高に清々しい。
思いっきりドヤ顔で笑ってやった。
「それで? 他にやりたい事はあるのかよ」
「読み聞かせて寝かしつけたい。それで最後だ」
「お前さんがこんなに人間らしくするなんて、マジで夢だな。いいぜ」
主人公に難が降りかかっても、前を向いていつもの日常に戻ろうとする。
よくある物語だ。
ただ、凄くぎこちなく文字を読んでいる。
読み違えては戻って行の最初に戻り、また読み直す。
この絵本の主人公みたいだ。──正直こういうのに弱すぎるんだよな。
「そ、して。わたしは…………
「ちょっと昔を思い出してな」
「はぁ……続き読むぞ」
■■■■
紅葉が散り始めていた頃だっけか。
学校の図工で短冊に願いを書いて笹に括り付けていた。
だが台風の影響で短冊が遠くに飛ばされてしまった。
放課後に飛んでいった方向を追いかけて、あるビルの前で落ちていたのを見てな。
怪我をしたマズルカが床で寝てたから、怪我の手当てをして俺の家の居間で座布団置いて寝かせたら表情豊かにさせて感謝を言ってた。
何かお礼は出来ないかと悩んでいたら俺の濡れた短冊を見て、
「家族と食卓を囲みたい……家族が居ないのか」と聞いて来たので
「俺が居ても床で食べてろとか言われるからな」と答えたら家まで連れてこられた。
■■■■
──そんな事を思い出していると、読み聞かせが終わっていたのか夢から覚めていた。
「……おはようお兄ちゃん」
「ん……グレイの家だったか。おはよう」
「ご飯食べる? 味噌汁とご飯あるよ」
「食べる」
ふっと差し込む朝日が顔に当たり、静かに起き上がる。
席について味噌汁を一口食べる。──夢の中で食べたせいで変な感覚がした。
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