巷で人気のあの子②
──シルク邸。1人だけで行くのに慣れていないけど、話し相手がいるから安心して行ける。スタンリー以外の人には話しかけられないけど……
「…………あ。珍しいな」
「グレイス……ちょっと要件があって。あまり話せないんスよ」
「兄さんはどうしたんだ? まさか、喧嘩とかしてたり」
「……そうなんスよ」
「珍しいですね。とりあえず、ご注文を」
「
「どうぞ」
大きな青いかき氷を口に入れながら、焦り気味のグレイスと軽い口喧嘩になった。二次災害が起きる程じゃないよなとか、魔道具いくつ突きつけられたとか。……彼の怒りに触れた事があるのかな。ある程度質問を答えた後、グレイスは一息ついて両肩を掴んできた。
「北風、多分それは精神的に壊れる可能性がある。速攻で止めに行かないと兄さんの魔道具が全部壊れるかもしれない」
「でも今自分が行ったら、絶対に怒られちゃうっスよ……」
「あー、兄さんはなんで飼い犬にも自分の事話さないんだよ……!」
「──グレイス様、代わりに私が詳しくご説明します」
スタンリーが1枚の紙を用意して簡単な図を見せる。
「ニスト様は過剰なストレスから、普段、爆発的な量の魔力を煙草から作り出しています」
「でもご主人は自分が見てない時にあまり吸ってないっスよ……」
この際気にしないで下さいとキレられたので黙った。彼女が言うには、この魔力を魔道具に使って一般的な人間と同等の魔力にしている。しかし、精神的が一定のラインを超えて崩壊すると、魔道具が最大出力の状態で暴発すると同時に人としての許容量を一気に超えて魔力が暴走した状態になるらしい。
「……え、魔力無いって幽世編で言ってたっスよ!?」
「緊急時だったのでしょう。ともかく、ニスト様を説得させて喧嘩を止めましょう」
「話を聞いた感じ、説得させるのは
「アニマルセラピーを頼るしかないのでしょうか……」
「1日だけ待ってみてからでも良いっスか。気持ちの整理ができるかもしれないっス」
良いんじゃないかと話を聞き終えられたので、仮眠室に隠していた武器を引き出した。自分の為に父が作って渡してくれた格闘武器だ。赤と青のアクセントがカッコいいけど、魔力の扱い方が分からなかったから重くて使えなかったんだよね。
「念の為に持っておかないとっスね。……ご主人、落ち着いてるといいな」
……そろそろ寝よう。明日は疲れてしまうかもしれないし。
■■■■
「換気しないとな……飯も作り忘れてる」
『そのヤニの塊で腹一杯になってると思っていたが、満足しきれないんだな』
出てけと言っても出て行ってくれない。本当に邪魔だ。
「役割としてな、
『他人のせいにするのも見苦しいぞ。
「まだ本名覚えてんのかよ。気持ち悪」
無視すれば口を出し、口を塞ごうとすれば首に両手を当て、怒ると冷たい視線で黙り込む。本人と話している時と同じ感覚がして、
「マズルカ。お前の昔の野望は好きで興味深かった。だが今の泥沼みたいな環境が最悪すぎて離れてんだよ」
『……
「そう。職場に北風を……なんでもない」
『北風に嫉妬でもしているのかよ』
「…………」
『図星かよ!』
全能感だとか、世界を征服したい気持ちが理解できなかった。だが今はわかってしまう。1人の人間に物事を教えすぎて、人生の最後まで俺が導いて、囲い込んでやりたくなってしまう。……できないと、俺は空白な存在になってしまいそうになるんだ。
『居場所は残っている。役割も生きがいも仕事も全て。こっちに戻れよ? 苦しい気持ちを忘れられる忘却弾付きだ』
「同じ箇所に何発も撃たれたら効力が薄くなってくんだぜ、それ」
『次回までに改良しておく』
「……変に真面目なんだよな」
身震いが起きそうだ。どうせ本人は来ないだろうし、話疲れて眠れそうだ。……胸焼けするような辛さはあるが、気持ちの整理もついてきた。
「………………」
窓を少し開けて綺麗な空気が肺を満たすと、気絶する様にふっと睡魔が襲いかかった。
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