寒波は止まず①

「情報を集めようにも私が話しかけに行くと話を濁されてしまうね……手伝えなくてすみません」

「気にしないでくれ。逆に考えればお前さんに対して隠したい何かしらがあるかもしれないぜ?」

「私は何も問題事を起こしてないんですよね……弟の為に精一杯働いてご飯を食べさせた位で、それ以外には特に何も」


 だとしても、話の論点をズラそうとしたり、名前を聞いただけで話を聞かないようにしたりしているのはおかしい。国全体でグレイス達を隠そうとしているのか……?


「話題の中心の奴かもしれないが、教祖に話でもしてみるか」

■■■

──逆に違和感を感じる位に静かな協会。先程まで教徒達が話し合い、食事を取っていたからだろうか。仕事に精を出して居なくなっている事は感心するが……。


「どうも。この地はいい場所だな、俺も暮らしたいくらいだ。だが……住む前に知りたいことがあってな。噂とか生活上に関わる問題は無いか?」

「そうですねぇー──……私自身知らないことも多く、噂については詳しくないですが……生活の問題は、資源不足になってしまった時ですね。最近は天気を知る技術を得ることができたので減ってきましたね」

「天気予報? いつ頃から得たんだ?」

「4年近く前でしょうか……」


 4年。最近かもしれないが、4年という単語は技術だとか流行りが高速で進んでいく今ではかなりの年数だ。──グレイスを保護した時よりも1年早い。となると……


「大寒波を予測して『繋ぎ手』とやらを出すタイミングを遅くしてもよかったんじゃないか?」

「それが、教徒達からの口伝えでグレイス様が出ていきたいと」


「大寒波の前に教徒達の間で何かあったのか?」

「特に何も無いですね……」


 となると、教祖以外の誰かが意図的にグレイス達を叩いて大寒波に直撃させたって事か……北風の魂を取り、グレイスに兄の魂を入れた奴と同一犯なら面倒な事になるぞ。


「あぁー、さしぶりに頭使ったから故郷のうなぎ○イが食べたいな……ダブ○ーもアリだが」

「お疲れ様。お力になれないのがつらいです」

「両親が何か問題を起こしていたくらいしか恨みの原因が見当たらないぞ……。そもそも、魂を移植する魔法とか聞いた事ないぜ? 呪術に似ているが……」

「命が生まれて、成長して、死ぬ……私が生きているのはその流れを破っている様にも思えます」


「そうだ、禁術……!!」


 新たな生命に転生するまでの間に魂を一時的に保管して移植できるルールを『加筆』してしまえば、簡単に引き抜いたり移植したりできる。魂が保管できなければ抜き取られた北風は植物状態ではなく死んでいる事になるし、大寒波で死んだはずのグレイスの兄も移植して生きている事になる。


 そして、そんな禁術を2度も行っているという事は、対価を大量に払っているだろう。他人に押し付けたとしても術者は1人ではないと上手く扱えない。口伝えだとしても、魔法の使い方には個人差がある。


「……間違いない。この問題には『例外』が関与している。禁術の対価を気にせず、大量に扱う奴らだ。最悪この国が無かった事にされるぜ」


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