雪月の光明③

「……ん」


 3時間くらい寝てしまったか?と思いながらも、北風が眠っていたのでそっとベッドに運ぶ。……魔力が感じられない。


「………………北風?」

「────……。」

「おい、北風。幽体離脱とかってギャグか? 俺にそんなの通じないぜ?」

「────……」


 サングラスを借りて付けても何も見えない。

 魂が、抜けている、幸い脈は打っている、植物状態に近い。


「北風。ちょっと、どこ行ったんだよ。おい、な?」


──落ち着け、まだ1人じゃない。大丈夫だ。

 ほら、グレイスもいる。仲間は居る。


「……グレイス。聞いてくれ、北風が倒れていたんだ」

「北風? 誰ですか?」

「ショックの勢いで俺が忘れてた事は謝る。真似しないでくれ」

「えっと……何を言っているのかわからないです。 それよりも、弟は生きていますか?」


 もしかしてと、北風のサングラスを借りて付ける。──グレイスの体に外部からかの様に魂が2つに増えていた。体は同じだが別の人なのかもしれない。


……血の繋がった年上の家族、居たんだな。


「鏡要るか?」

「ありがとう。……この体、弟? 生きていたんだ……良かった。いや、返さないとダメだ。えっと──」

「ローレン・ニスト、ケールの兄か姉なのか?」

「兄です。ニストさん、これは一体……」

「俺にもわからない。後、敬称は要らないぜ。俺がさん付けしないといけないかもしれないからな」

「気にしなくてもいいです。グレイス・ピリードと言います」


 兄の事を忘れていたのか、本人が隠したがっていたのかわからない。ただ、声色と口調、身振りからして優しい人なのは絶対にわかる。俺にこんな優しい人が家族にいたら、あいつ以上に丸くなってただろう。


「ピリード、聞いてくれ。俺はこの国の不穏な動きについて調査している。誰かが、俺の大事な北風の魂を抜かれてしまって……手伝って欲しい」

「手が震えてますよ。落ち着いて。弟に体を返す為にも手伝います。力になれるかは分からないけど……抱きしめて、落ち着かせる事はできる」


 体は彼のものの筈なのに、こんなにも気を許せるとは思ってもいなかった。母も父の顔も出てこないせいだ。友人の声しか覚えてないせいだ。俺が、一人っ子だったせいだ。

 気づいた頃には、事実が受け止めきれなくなっていた。


「北風が……いつも通り話してくれなくて、確かに何かあって、何かから俺を守って、くれで……」

「北風さんの為にも頑張りましょう、まだ希望はある」

「もう少し続けても良いか。久しいんだ」


 ペットロスという単語を耳にした事はあったし、辛いという事もわかっていた。それなのに、想像を軽く超えた辛い気持ちが深く刺さっている、優しく厳しい事実が突きつけられる。

──悲しいとは思わないのに、苦しくて腹の中に抱えたものを吐き出したくなってしまう。


 そろそろ頑張りましょう、と背中を押してくれた。顔を拭って前を向くと、冷たい風が出迎えた。



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