雪月の光明①
グレイス・ケール。数年前、休暇の意味で雪国に飛ばされた時に見つけた血の繋がっていない弟だ。
家の作りが木と雪のみで、家具が無かった。そんな物を建てるなら地下に家を作れば解決すればいい筈なのに、暖房も暖炉も無いのに、地上に家が建てられていた。
土は雪で隠れ、生物は寒い環境に慣れた魚くらいしか暮らしていなかった。そんな環境下で子供だったグレイスが容易に過ごせるとは思えない。
「なぁ、グレイス。お前さんが子供の頃はどんな暮らしをしていたんだ?」
机に向かって座り、真剣な表情で資料を読み漁っていた。彼の眉間には集中のしるしのしわが寄り、目はテキストの文章を追って動いている。肩を軽く叩くと少し驚きながらも視線を上げ、俺を見た。普段の仕事モードに入っているな。
「それが……意図的に引き抜かれたかの様に出てこないんだ。確かに街はあった。それは覚えているんだが、街の景色だけで生活様式や人の姿が出てこないんだ」
「呪術の類か……? だが記憶に関する魔法は聞いたことがないな。あるとしても特殊海域を超えた時の反動くらいだ」
「その……特殊海域?と呪術って何スか?」
「説明するのが難しいな。図に起こして書くから待ってくれ」
新世界にて魔力と同時に発見された魔法の一種だ。
魔法は『奇術』『呪術』『錬金術』『禁術』の4種類。
炎を出したり雷を呼び寄せたりする奇跡の術『奇術』
呪い、妬み、怨みを扱い、幽霊の恩恵を受ける『呪術』
奇術と物質を合成して、魔道具を作り出す『錬金術』
莫大なコストを払い、世界のルールを加筆・利用する『禁術』
呪術と禁術に関しては謎が多く、未発見な要素が多い為、自然以外の超常現象が起きた場合は基本どちらかを疑う。禁術をポンポンと使うのは1つの例外を除いて使う人はいないだろう。
「俺の扱う魔法は魔道具頼りだから、基本的に錬金術しか扱わない。北風は魔道具ナシで体力を倍加させているから奇術だな」
「面白いっスね」
「魔法は奥が深いぜ。さて、もう片方の特殊海域についてだな」
今いる終夜の大陸マップを大まかに書き上げる。
その外周に赤く囲った。
「この赤いライン内が特殊海域だ。飛んでもワープしても影響を受けるぜ」
「終夜の場合は時差ボケ。今から向かう雪国は……低体温症らしい」
「げっ、防寒具だけじゃどうにもならないぞ」
「皆でご主人をぬくぬくさせれば大丈夫っスよ〜」
「それで解決できればいいんだけどな……」
グレイスの故郷行きの調査船に乗り込み、荷物を確認した。
詳しい調査がされていないので大陸の名前は無い。
波が強く荒れ、船が動き出した。
「最悪俺と別行動になるかもしれないから、魔道具を大量に用意しないとだな」
「そんなに武装しなくてもご主人は強いっスよ!」
「お前さんは身体的に強いが、俺は膨大な魔力も筋力も無いんだよ」
「兄さんの魔道具はたくさんあって、どれが兄さんにしか扱えない魔法か分からないなぁ……」
「普段使いできる傘だけ見せとくぜ。カールフロウ、呼びにくいから木セルって読んでるぜ」
骨組みだけになった木製の和傘だ。タバコの煙が傘の生地になって雨風を凌げる優れもの。その辺の木を加工した物なので、最悪焚き火の材料にできる。
「他には何かあるんスか!?」
「内緒」
「ご主人のケチっス」
「隠しておくんだよ。っていうかお前さん見たことあるだろ」
「……まぁ。」
■■■
──時差ボケに襲われて眠りにつき、時間が過ぎていく。肌寒さを感じてきた時、例の大陸が見えてきたと報告が上がってきた。
「例の大陸が見えてきたか。さて、特殊海域に入り──……終わってる? 何も起きてないな。なぁ、北風、北風? グレイス? どこ行ったんだ?」
船内を見渡しても誰も居ない。どういう事だ。透明化……逆だな、人が見えなくなっている? そうだ、外だ。船外を見に行こう。
「グレイスー、北風ー! どこだ、どこにいる!!」
「ココっスよ。もう、夏なんスから海を泳いだ方が得っスよー」
「……何処だ、後ろか?」
「下っスよー」
「海の方にいるのか!? 今行くから待ってくれ」
服を脱いで真夏の海を飛び込もうとすると、体を強く固定されてモフモフの体に持ち上げられた。驚いて後ろを向く。──北風の姿だ。
「
「あ……?いやだって今海の中に北風が」
「低体温症の影響だ、兄さんにお湯飲ませて!!」
疑いながらも白湯を口に運ぶと真冬の景色が一面に広がった。
低体温症を舐めていた。体温が下がるだけで不快感を感じる程度だと思っていた。
「ご主人、とりあえず服着て下さいっス。自分は獣人の毛皮である程度寒さに耐えられるので……」
「ごめんな。ちょっと……ショックが」
「落ち着いていいんで、先に陸の方……誰か居るっス。姿勢低くして」
ボタンを留めて上着を着る。ズボンは履いていたがベルトが緩まっていたな……よし。向こうの方を見るか。
「我らは『
「……わかった。不審な動きが見えたら俺は反抗するからな」
「ご主人……」
「両手上げて兄さんについて行こう。ここにいても情報は集まらない」
魔道具を隠し持ち、白い衣装に身を纏った教徒達に同行した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます