蜘蛛の意図②

「北風、魔力をくれないか」

「良いっスよ〜。ぎゅ」


 ぬるい暖かさと一緒に体力が入ってくる。

 全部抜き取られても死なないが、一日中怠けたくなる程体力が無くなってしまう。逆に魔力に有り余っていると走り回りたくなる。程々がいい。


「あー……よし。作れそうだ」

「自分は何してれば良いっスか? 魔力なら有り余ってるっスよ!」

「なら、俺に魔力送りながら応援してくれ」

「はいっス!」


 ハグされながら木屑や端材に魔力を送る。

 一つの商品として売り出せそうな物を作ると、北風に渡した。


「できたぜ、提灯。ガラスは今後作ってくれるだろうからそん時に頼もう」

「可愛いっスね〜木の温かみがあって可愛いっス」


 接着剤代わりに木屑を使い、端材を細くして編んだ。

 可愛らしいサイズなので照明としてはあまり効果がないが、見た目が可愛いし安心するからいいか。


「そこの幽霊さん、提灯はどうだ? 明かりが無いと夜になった時に困っちまうだろ」

「いいね! 1つ下さい」

「毎度〜。北風、たくさん作ったから渡してきな。お散歩代わりにたくさんの人に渡すんだ」

「はいっス!」


 モフモフが飛んで行った。もうちょっと触りたかったが、我慢。

 一つ、また一つ渡して去っていく。嬉しそうな顔が見えるだけ嬉しい。


「──こんな感じか。疲れた。北風ー、モフらせてくれないか。…………遅いな」

「北風は大事な奴なんだな、向こうの通りで渡しに行っていたぞ!」

「供鳴じゃないか。建築関係はほぼ終わっている様な感じなのか?」

「問題ない、それよりも俺は北風に対する絶大な信頼を感じる事に疑問がある!ただの仲間として頼るにしては違和感を感じるぞ」


 自分でも考える事だ。

 別に家族ではないし、主従関係が見えるが実際に奴隷にしていたら『ご主人』呼びされているし、もっと従順な人にさせることはできた。

 それらを踏まえた上で、何故彼をとても信頼しているのか……うーん。


「あーっとな。実の所、ほとんど無意識なんだ。俺自身でも何でかわからない。ただ、この人なら一緒にいれそうな気がしてなー……」

「面白い話だ。俺は二人が家族に見える! そうではないのか?」

「違う。北風は元々──売りに出されてたんだ。本当は高い価値で買うべきだった、大金もあったんだ。それなのに100円で買って、持っていた金を捨てたんだ」

「負い目を感じているのか? 彼は今幸せそうに暮らしているではないか。そう考えなくてもいいではないか」


 もっと早く見つけることができたら、もっと早く幸せを届けられたと思っていて仕方がない。過去のことで、今は彼が幸せに暮らしていることを喜ぶべきだ。

 彼が安価で買われた過去を引きずる必要は無い、今の関係を大切にすればいい。

……悪いことを引きずってしまう悪い癖だな。改善しないと。


「……ありがとな。肯定されすぎて浄化されそうだ」

「気にするな!」


 北風が奥からとぼとぼ歩いてきた。クタクタになってお疲れに見える。


「お疲れ様だ。髪にゴミが付いてるぜ」

「んーー……ご主人とお風呂入りたい……」

「後で入ろうな。よしよし」


 一つの提灯を掲げ、声を張り上げ注目を集めた。


「──俺は今、マク○ナルドでダ○チーが食いてえ!!」


「マ○ド……?」

「チーズたっぷり掛かったパティにかぶり付いて、コーラ啜って、揚げたてポテトが食いてえ!!!」


 唖然とする幽霊達はピタリと止まって、視線を動かそうとしない。


「ご主人、ダ○チーって……?」

「こんな良い場所でいい飯食えなくて辛えんだ、お前らもそんな欲望無いのかよ!!」


 煽られた幽霊達は口々に食べたい物を告げていく。

 綺麗な水、玉ねぎやお揚げの入った味噌汁、炊き立てで艶のある白米。

 そうめんに、うどんに、きしめんまで。

 幽霊達が持っている提灯に青い炎が集まり、ゆらゆらと揺れた。

「自分も美味しいご主人のご飯食べたいっス……!」と尻尾を揺らしながら目を輝かせる北風の隣で話を続ける。


「それはソウルだ。欲しいと感じた物に反応して通貨代わりに扱えるものだ。作りたい、渡したいと思う人がいるならそいつらのために動けばいい。……さて、北風のために飯作らないとだな」


 活気が戻ってきた幽霊達を見て、白塚は声を掛けた。


──”ありがとうございます”

「現世に帰してくれ。美味い飯を食って柔らかいベッドで寝たいんだ」

「ごはん、ご主人の作るごっはん〜」


──”神籬ノ御津柱神ノ塔の最上階まで来てください”

「『転生跡の先の杖』が完成したのか。でも『蜘蛛の霧』はまだ手に入ってない…………あー……?」

「どうしたんスか? ご主人」

「タバコが後何本あるか気になってな」


……いやー、悪い予感がするんだが気のせいだろうか。

 こういう時は基本的にセーフなんだが、心配性の勘がかなり「まずい」と言っている。このまま帰って来れたら嬉しいな……

■■■

──神ノ塔、最上階。


──”お待ちしていました。では、帰る為の儀式の最終段階を執り行います”

「儀式だったかー!いや、まぁ当たってそうだな……」


 完成済みの新しい杖を一本取り出し、石像の前で掲げる。

 光の柱が生まれ、白塚の体が蜘蛛の体に変わっていく。

 杖から発せられる光の力が白塚の体を包み込み、人の姿を外れた神に変わった。


神籬ひもろぎ……塔を完成させないと変われなかったって事かよ、逃げるぞ北風」

「は、はいっス」


──『幽世の扉 開門』

 白塚は禁術を口にする。空は黒く染まり、前も後ろも見えない世界に変わる。

 胸の奥から伸びた手が鍵を生み出し、鳥居出口が開く。


──”そろそろ限界です。これを持ってお逃げなさい。楽しかった、ですよ”

「鍵は受け取った。ここ幽世も悪くなかったぜ」


 鍵を掴み、北風に抱きつく。

 何も考えず、本気で走れと伝えると最初の時よりも強く地面を蹴り上げた。





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