転ばぬ先のなんとやら③

■■■

──幽世、共鳴の自宅。

 広々とした城の中で、大量の資材を見た共鳴は嬉しさで声が張り上がったのだった。


「おぉ、おぉ! 三人共ご苦労!」

「魂持って帰ってきたぜ。資材集まれば建物が作れる様になるな」

「頑張るっスよ〜!」


 幽世に戻ると、木や苗が実体化していた。

 このままだと重いだろうからと、水路に流して塔に移動させようと提案する。

……小学生の頃、教科書でピラミッドを作る時に水力を使ったという説を読んだ。

 他人が汗水流して作り上げた歴史的行動に、本は『ピラミッドを作った』と1文だけ書いてあったり、完成後の姿の一枚だけが貼られていたりしていた。


 俺が今行っている行動が称えられたり、教科書に載ったりはしないだろう。していたとしても1文だけ。だからこそ、今の時代ではロストテクノロジーと呼ばれそうなものを復活させている。俺と北風、雨読と床に眠った人達の素晴らしい秘密だ。


■■■

──そんな訳で塔に戻る。

 木を加工する担当、砂を土に変えて苗を植える担当とで二つに分かれる。

 興味を持った幽霊達は共鳴と雨読に着いて行き、俺と北風で苗を植えに行く。


 砂に苗を入れ、大量の魔力を流し込む。

 ストレスを紛らわせる為に吸っていたタバコがここで役立つとは……

 昏倒しても大丈夫な様に、北風の隣で行う。


「魔力切れになっても自分が守れるんで任せて下さいっス!」


 両手でギリギリ収まりきった量のどんぐりを1つづつ地面に埋める。一気に魔力を流し、手を向けると、一瞬でに力が入らなくなった。


「あ、自分もちょっとヤバそうっス……」

「えっ」


■■■


 8本足が伸びた様に見える着物に身を包んだ女性が、畳の上で座っていた。

 目の前にはヒビの入ったおもむきを感じる茶碗と、抹茶。

 茶道の知識は飲む時に器を動かすくらいで、それ以外は知らない。


「初めまして。俺はローレン・ニスト、魔道具や魔法薬を作って商いを行なっています」


 念の為に敬語で話しているが、どこかで安心感を感じて気を許した方が良さそうだと判断する。彼女は深々と頭を下げて返してくれた。言葉は通じるらしい。


──”初めてではありませんよ。”

「白塚……!?あー、いや。顔が見えなかったから分からないか」

「なんか神々しいっスね」

「北風居たのか…………何かデカくね?」


 後ろに振り向くと、青白い毛むくじゃらがデカデカと座っていた。

 5メートル位はあるんじゃないか? とにかくデカくてモフモフする。

 いつも通りの北風っぽさは感じるが、四足歩行で全身青白い。


「ご主人を全身で包めるサイズになっちゃったっス」

──”北風様の中に何か強大な魂を感じますね。穏やかに揺れているので問題無さそうですが”

「それなら良いか。抹茶、頂くぜ」


 器を回して飲んでいると、北風が真似したいのか頭を下げて伏せの体勢になる。

 少し右に回して飲ませると顔を歪ませて「苦……」と呟いていた。


──”旧世界の物を再現してみました。お口に合いましたか?”

「スターバ●クスとかタ●ーズコー●ーで飲んだ物とは違っていたが、自宅の物に一番味が近かったな」


 判断基準がアレだが、旧世界にあった有名なブランド名を上げると分かる人とわからない人がいる。名前だけ知っている・名前も知らないのがほとんどだが、たまにボロを出して「旧人類です」と吐いてくれる人がいる。あのまま文明が残っていたら、もっと楽しめただろう。

 彼女は平成とか昭和とか、そんな時代を軽く超えた昔の世代の人かもしれない。


「抹茶は俺の時代にも残ってたぜ。抹茶フラペチーノ、抹茶パフェ、抹茶パンケーキ。工夫が加わって、全部美味しかった」

「全部苦そうっスね……」

──”残って、いたんですね。そうですか、まだあの時まで……”

「なぁ。白塚は昔の技術をそのまま受け継ぎたいのか?」


──”それは……”

「幽世という一つの世界は、受け継ぎたいお前にとってのじゃない。時代が変わり、環境が変わり、適応していこうと変化した結果生まれた物だ」


──”私の知っていた《現代》から置いてかれてしまう私が怖いのです。だからと言って、止める理由にはなりません”

「……後何分で俺は起きれる?」


──”2分と言ったところでしょうか。何をするつもりで?”


 俺はたまたま生き残ってしまっただけで、偉い事が言える立場じゃない。

 教えてやる立場じゃない。相手に納得されるだけでいい。


「たまに俺自身に言い聞かせている内容の話だ。聞いて欲しい」

──”わかりました”


 俺も生まれてない、昔の時代だ。

 電話で連絡したり、メールで会話する事が生まれてきた頃だな。

 導入された時は楽しんで使う人が多かった。だが、批判する人もいた。


「短い会話をしていては会話の質が落ちる。長文だからこそ、質の高い語彙で会話ができる」

「断片的な会話で楽しめない」とかな。


 だが、俺のいた時代では140が限界の会話を青い鳥の中で楽しんでいた。

 その鳥は今白黒のものになってしまった。時代は変わるんだ。


「そろそろ2分経ったか。北風、吸わせろ」

「お腹はイヤって言ってるんスけどね……」

──”そろそろですね。私はこの国の成長を眺めていますが手伝いもします。完成をお待ちしています”

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