転ばぬ先のなんとやら②

 塔周辺の探索をしていた北風と合流する。

 楽しく走り回りすぎて息切れしていたって事は、かなり広い場所なのだろうと考察できた。さて、北風からの報告を聞いてみるか。


「えっとっスね。街と呼べる場所はかなり少なかったっス。屋根まで砂に埋もれている様子も見えたっスよ!」

「建物の見た目の違いとか植物とかは見えなかったか?」

「植物は生えてなかったっスね。ただ、建物が全部の場所で見た目が違うんスよね。今っぽい物もあれば、木で造られた白黒の建物みたいなのもあったっス」

「時代が混同してるのか……?」


 魂がいつまで留まっているのか分からないが、日本だけでなくアメリカやイギリス等の他国に居た魂もここに来ているのなら正しい。来世に行けたのなら抜け殻になってシャッター街並みのガランとした空気を作る事も容易だろう。


「それで、サングラスを通して見たら分かったんスけど、建物の素材に微量のソウルが感じられたっス」

「魂の残り火を入れて実体化させていたのか。なら、その方法で植物を植える事も出来るかもな。いい情報を掴めて偉いぞ」

「えへへへ」


 消えない青い炎。俺の国で通貨として使っている物。集めようと思えば現世に居る幽霊から貰うことが出来るが、現世に行く方法が無い。ランタンも無いから一つもソウルは持っていないのが痛手だ。


「困っている様子だな!」

「うおぉ、急に後ろから来るな!? びっくりしたぜ」

「俺の家に幽世の簡易門がある! 現世に戻っても幽霊のままだが、行って戻る事は出来るぞ!」

「助かるな。雨読、北風。現世でいくら持ってる?」


「駄賃は持ってないぞ」

「お肉ならあるっスよ!」


「……お前らなぁ」


 だが、幽霊なら他の幽霊を脅してぶん取る事が出来るらしいので、二人は取りに行こうと意気込む。残り火が手に入って、幽世に働き手が増えるので一石二鳥だが、やっていることがヤンキーのソレで良い事だと思い切れない。


「では、俺の家まで案内しよう!」


■■■


──と言って案内されたのは塔の地下。水道が通っているんだな。

 オアシスが一つも無いなと思っていたら、地下に広い水路が引かれていたとは。

 共鳴が作ったのだとしたら、何が重要なのかを知っている。優秀だな。


「この水路の波に乗って俺の家まで一気に移動する! 船酔いしない様に気をつけろよ!」


 木の板を作ってつなげた程度の、簡単ないかだに乗っていく。

 砂岩で造られた壁に、天井にある、作業感あふれた発光魔法のランタンが研究中のエジプトっぽさを感じさせてとても楽しい。


「サングラス落とすなよ。まぁ、いわく付きだから勝手に戻ってきそうな気はするが」


 本当に曰く付きなのか分からないが、どこで取れた素材なのか不明なガラス、呪術に似た魔力が付いているフレーム、北風が一度死んで衣服が無くなった時に外れていなかった呪いじみた事実。

『伝説の異色作曲家、”シューレルト・レヴァン”の遺した』コレは、いわきの代物シロモノかもしれない。俺の直感がそう言っている。


「ご主人、泳ぐのも楽しいっスよ!」

「手を離すなよ。結構強い波が出来てるから溺れたら助からないかもしれない」

「はいっスー!」

「拙者の田の用水路も、こんな風に出来たら育ちが良くなるだろうか……」

「感心してる場合か。結構危な──ぅ」


 船着場に着き、地上に上がってから、砂の上で軽く吐く。

 北風に背中をさすられながら、共鳴の家……城、だよな。高い石垣に、純白みたいに綺麗な壁に、黄金に輝く鯱鉾シャチホコに。田園でんえん風景も再現されていて、日本の和の部分を強く感じさせた。


「でかーいっスね……カッコイイ……」

「拙者の見た時代の物とは少し違うかもしれぬ」

「まだ、残ってたんだな」


 それぞれ異なった感想を呟き、城に乗り込む。

 広い。デカい。カッコイイ。

──ただそれだけの感情に胸がいっぱいにされる。


「ここだ」


 大広間に、取手がついている二枚の畳。

 これを開けると現世に行く事が出来るのか……。行く前に作戦を立てておく。


「俺は北風と俺の体がどうなってるか確認する、北風は資材集めを、雨読はソウル集めに行ってくれ」

「はいっス!」「応」


「共鳴は集めた魂を実体化させるのをお願いしたい。出来るか」

「出来るぞ!」


 畳を上げて入り口を開けると、夜空と上からの街の風景が広がっていた。


■■■


──今の故郷、終夜世界。日が昇る事はなく、終わらない夜が続いている世界だ。

 幽霊が住み着いているのは居住区の周辺。海岸に向かうと森林が見える。

 俺と北風が倒れている場所をうろ覚えで行ってみたが……居ない。誰かが運んだのか?


「一応家まで行ってみるか……」


 都心から少し離れた、ダークウッドの暗い落ち着いた家。俺と北風の自宅。

 律儀に入り口のドアを開けて入りたいが、今は霊体なのでドアノブに触れられない。壁をすり抜けて通る事になる。……何だか変な気分だ。


「良かった、居た」


 ソファで二人共寄りかかって眠っている。

 誰がここまで運んでくれたのかは、机の上の手紙が教えてくれた。


──兄さんへ。

 起きてるなら俺の所まで連絡してね。急に倒れて心配なんだ。

 北風も起きなくて嫌な予感がするんだけど、魔力がまだ流れてるから生きてるって信じてるよ。早く元気になってね。


「グレイスより……後で感謝しないとな。っと、二人の仕事を手伝いに行かないとな。すでに終えて待ってるかもしれない」


 入り口の辺りまで上昇すると、北風が大量の丸太、雨読が大量の魂の炎を持っていた。両手で抱え切れる大きさに見えない。幽霊で筋力が関係無くなったからだろうか……。


「それじゃあ、幽世まで戻るっスよ!」

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