転ばぬ先のなんとやら①
「いやぁ、失敬。拙者の一撃がそんな力を持っていたとは」
数千年前の日本人っぽさを詰め込んだ様な容姿の彼が、今回俺達を幽世に飛ばした犯人だ。
「現世に帰してくれ。一度、現世に戻ったことがあるんだろ?」
「あるにはあるんじゃが……出口がなぁ」
「壊れていますね。
数秒、沈黙に包まれ、汗が耳元を流れる。
「このまま居たらどうなるんスか……?」
「そりゃあ、拙者らがここで長居してたら」
「来世に飛ばされているかもしれないですね」
汗が冷えた様な気がした。
そしてまた、数秒。沈黙に満たされる。
「直さないと死ぬじゃないスか……!!」
「落ち着け北風。過去にもこんな事は起きた事があるんだろ?」
「鋭いですね。直す事は出来ますよ」
「一筋縄ではいかなさそうじゃな」
白塚は雨読の一言に頷いて答えた。
昔の日本の思想を引き継いだ性質。坂や橋に境界が存在し、異なる土地を分けた様に、鳥居も現世と幽世の境界を担う。だが、砂漠化の影響で魂の拠り所が失われて現世に留まり、境界が曖昧になっているらしい。
という事は、現世と差別化が出来て、
「拙者も助太刀致す。見殺しには出来ぬし、人手は何人居ても嬉しい筈じゃ」
「『転生跡の先の杖』と『蜘蛛の霧』という帰る為の道具の両方を作っておきます。幽世を、どうか宜しくお願いします」
■■■
──砂漠に男三人。脳筋二名と、俺一名。
「ノーヒントで情報はミリ単位に近い。どうすりゃいいんだよ……」
「雨読は幽霊が見えるんスよね?」
「そうじゃな」
「自分と手分けして人を集められるかもしれないっスよ」
「んじゃ、情報収集と地形の把握を頼みたい。俺はここで自然を作れるかやってみる」
雨読が地形の把握、北風が情報収集に向かう。
俺は出来る事が無い。商品は無いし、闇雲に魔力を使って昏倒したら迷惑だ。
うーん。特に何も出来ない。北風に着いていくべきだったか?
「まぁ、ちょっとくらい魔法を使っても良いか」
脳内に残る魔法陣の形を思い出し、ジッポライターの火を砂に落とす。
魔法陣に手を沈ませ、
引き抜くと 砂を巻き込みながらレンガが完成した。
「感覚は鈍っていないな」
それを何個か量産していき、砂を取り除きながらレンガを造り上げていく。
様子を見ていた誰かが「おぉ……」と声を漏らした。
不意に聞こえた声の主に振り向く。……和服を着ているが、陽キャっぽい雰囲気がする。
「観戦がしたいだけだ!」
「……錬金術に興味があるのか?」
「錬金術。聞いた事がない! 奇怪なものだ!」
「聞き馴染み無いのか? 魔法が扱えれば楽しいぞ」
泥や埃が少し付きながらも、長年大事に手入れして着ている着物。
着物が普段着として使われていて、高値で簡単に買えなかった時代と考えると、雨読が生きている時代と同じなのではないかと考察する。魔法を知らないのも納得。
──等と考えていると、ご本人が周辺の地図を記して戻ってきたが、彼は目を丸くして驚く。
「
数秒の間が生まれ、重い空気感を破壊するかの様に彼は断ち切った。
「俺は雷豪ではない! 人違いではないか!」
「……なら、名前を名乗ったらどうだ?」
「それもそうだな!……俺は、
引っ掛かりを覚えていた彼は、共鳴の苗字を耳にして納得する。
そうか、だから彼は──と呟き、一抹の寂しさを感じ、自身の胸を軽く掴んだ。
「……拙者は月影 雨読。貴殿の先祖、雷豪殿の友人だ」
「俺が割り込むのは野暮そうだな。地図確認してるから二人で話してくれ」
「ニスト殿。感謝する」
■■■
──僧侶が地域の寺社を支配下に置き、後に『前九年合戦』と呼ばれる争いをきっかけに武士が争いを激化させていた時代。源氏と平氏が幾度も衝突し、百姓は決して良い暮らしではなかったが、拙者にとって悪い日々ではなかった。
米を育て、たまに近所から大豆と交換し、食事を摂る自給自足の日々。
拙者は武士──形は変わってしまうが、現代で呼ばれる『侍』を夢見る。
戦を重ね、集団で襲われながらも手鎌を片手に生き残りながら、息絶えてしまう。
人を殺し続けながらも、友になり続けてくれた百姓。その人が雷豪だった。
「鳴神家が残っていて拙者は嬉しいぞ」
「まさか旧友だったとは! 俺は驚きと喜びでいっぱいだ!」
「共鳴殿、聞きたい事も話したい事も沢山ある。聞いてくれぬか」
「勿論だ!」
■■■
あの様子なら、現世に戻る手伝いをしてくれるかもしれないだろう。
地図を受け取って塔に戻ると北風と合流したので、状況を整理しようと話し合う。
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