100円の飼い犬を拾ったので。
平山美琴
「幽世世界を立て直す」
ぐっもーにん、〇〇の世界
──どこまでも続く晴天に、細い雲が線引いていた。
晴天に混ざれそうな水色の髪が膝に当たり、丸い小さなサングラスの向こうに映る、薄い雲の様に透き通った瞳。獣人の長い耳と尻尾が軽く揺れ、俺が押し倒された構図のまま呟く。
「ご主人、タバコの匂いするっス……」
「北風。嫌なら退いてくれ」
「ああっ ごめんなさいっス。気が付いたらこんな体勢で」
波を描く
前と下を見ても砂の一面に目を疑いながら、黒いパーカーと四角い帽子に付いた砂を払う。コートと白シャツに付いた砂を払って俺も立ち上がった。
「一体ここはどこなんスか……?」
「最低限、太陽があるお陰で
今では故郷になった場所だ。自宅があるだけで母国ではない。
大陸なのか世界なのかが曖昧で、唯一分かるのは年中夜だという事だけ。
俺が住んでいた国は無くなってしまった。
「あ、後ろに何か有るっスよ。何か
「赤い鳥居だな。手を伸ばしても通り抜けても何も起きない」
「普通は何か起きるんスか?」
「何も起きないのが普通なんだが、こんな世界だから疑うしかなくてな……」
「魔法の効果があるかもしれないんスね」
「有るとしたら転移装置だな」
北風と散歩しながら覚えている限りの記憶を引き出す。今起きた直前までの1日の記憶は無く、彼と出会ってしばらくの記憶は有る。……最低限でも記憶が残っていて良かった。北風との信頼を大きく損なっていただろう。
北風は本来、俺の
「にしても、マジで、砂、しか見えないな……」
「へばるの早くないっスか!?」
「いや、もう、数十分経ってるんだよ。地面は砂で体力無くなってくのが早いし、魔力はあるが、持久力はゴミでな」
「仕方ないっスねぇ〜……抱っこするっスよ。今日分のお散歩っスよ」
「頼んだ、俺は景色見とくぜ」
──しばらく見ていると街っぽいものが見えてきた。
ここら一帯に何もないお陰で、何かあるとすぐに見えて助かる。
「人の居る気配が無いな。北風、この辺を調査するぞ」
「はいっス。あ、こっちに何かあるっスよ!」
「おぉー、あんまはしゃぐなよ──コレは……」
半透明のわらび餅。
「コレも食べれそうっスよ!」
モツ鍋。
こんな砂漠でホーロー製の鍋が見られるとは思わなかった。コレも半透明。
「あ、人間矯正用の魔道具もあるっスよ」
現代の魔道具だ。
食べ物の並びから急にグロい物を並べないでくれ。獣人が作ったのだと考えて妥当だが、何を矯正するのかは知りたくもない。
「この本凄いカラフルっスよー!」
キュー○ー3分クッキ○グの本!?
売ったら数百万円の価値があるレシピ本だぞ。舌が死にかけてる世界でこんな本があったら飯の国一つ築かれても過言ではない。
「終夜ならアホみたいな値段で売れるぞ」
「そうなんスか!?」
商品みたいな並べ方をしているのに、コンセプトが分からない。現世界にホーロー製の調理器具が造れるまで進歩したとは思えないし、固有名詞がある本が存在しているのはあり得ない話だ。多分、俺達は現世で存在していない場所にいる。
「人が居れば助かったんだがなー……」
「それでっスね〜。自分が大怪我負った時にご主人が嫌々輸血する時にそれ使って腕を固定したんスよ〜、そんな使い方があったとは──」
「そこに誰も居ないぞ」と首を
「北風、サングラスを通して何か見えてるのか?」
「よく気づいたっスね。にしても、幽霊だけの場所って初耳っスよ〜」
「……何となく現世ではないと分かっていたが、そうだったかー」
──地獄か天国か、死後の世界に転生したかもしれない。
死後の世界と言ったら、基本的に両極端な景色で、価値観も違って、全員死んでるイメージが強い。現世以外の世界があるのは知っていたが、死んだ時にしか見えない景色しか知らなかった。
「ご主人、向こうに幽霊で栄えている場所があるらしいっスよ」
「そこなら情報や様子が掴めそうだな。案内頼めるか?」
「お任せくださいっス」
■■■
「でけえな……」
「でかいっスねー……」
ピサの斜塔を連想させるくらいに傾いていて、東京タワーみたいにデカい。三つのオフィスビルが支え合っているのが特徴的だ。ノスタルジーさを感じる。
看板に書かれた名前、『
「………………」
「圧倒されるっスね。先、覗いてくるっス」
「わかった……」
食欲、睡眠欲、性欲の三大欲求が満たされているというのに、この塔を見て何かが飢えた様な感覚に襲われた。理由は謎だが、ただ一言
母国をこの目でまた見ている気がした。
■■■
一階の最奥で、着物を羽織る女性。
宇治抹茶色の髪も相まって、凛とした姿だ。
「お待ちしていました。現世から幽世に伝言がありましたので連絡します。
「「あ」」
名前を聞いて思い出す。
そして北風は俺を庇った。試しに放った技から、咄嗟にそう判断して。
原因の彼が、こっちに来るらしい。
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