第22話 仏パンチ【Buddha】

 大威徳明王は逃走するメフィストに額の白毫から光線を発射。遠くに見える小さな影が倒れ伏したのを確認。大威徳明王は六本ある腕の一つで胸を撫で下ろす。その決戦をブッダガヤから見守っていた五大悟天はデーヴァのその法力の凄まじさに改めて驚く。


「デーヴァ様が勝ちおった……あの醜悪な怪物3匹を相手にしながら、少しもピンチに陥ることなく」


「あ、あんなに強かったなんて……。あ、あああんなにもおいデーヴァ様がいればこの地上から悪魔を滅殺することも夢じゃないですねぇ!」


「だが、いくらデーヴァ様でもあれだけ長時間阿弥陀如来様の神気に触れて正気を保っていられるかどうか……発狂してしまわなければよいのだが」


「バガディーン。デーヴァ様を疑わぬようにあれだけ箴言してもまだ分からぬか」


「ダルマン。いやダルマンだけじゃない。レジーナ。ブーミヒ。ナラカ。口では何と言おうと、お前らも心の底では同じ心配を抱いていたはずだ。【化身】の危険性を我等五大悟天程知っているものはいない。ならば、むしろ疑いを抱くのが道理であろう」


「それは――――そうだが、」


「そうだろう」


「デーヴァ様は無事でおられるだろうか」


「ヒムサーの例もある。奴は、【化身】を使った後発狂してもう戻らなかった。哀れに思ったデーヴァ様が介錯を務めたが――――あの時のデーヴァ様は泣いておられたな」


「まさか、デーヴァ様自らがこの闘いに赴いたのは我らを【化身】から守るため――――」


「ありえる。デーヴァ様は優しいお方だから。だとすれば――――」


 レジーナ・チャンドラが胸を押さえて涙ぐむ。他の五大悟天もその姿にもらい泣きする。


「【化身】は自らを依り代として仏をこの世に降臨させる仏塔の禁断秘術。だが、仏の清すぎる神気は不浄の生物である人には猛毒である。生き仏陀デーヴァ様と言えど耐えられないのではあるまいか」


「身も心も清きデーヴァ様のことだ。きっと無事に違いない。しかし万が一……」


「ええい! お前ら迷っていてもしょうがないだろ! デーヴァ様を信じるなら信じるで最後まで信じ通して見せろ! ダルマン、お前の信仰は俺の言葉で揺らぐ程度の振興だったのか! 見損なったぞ!」


「おお、バガディーン。その通りだ。我等信じることでしか救われないのだ。もはやデーヴァ様の無事を信じるしかあるまい」


「祈れ、祈れ」

「祈れ! 祈れ! 祈れ!」

「祈れ!! 祈れ!! 祈れ 祈れ」

「祈ろう!!! 祈ろう!!! 祈ろう!!! 祈ろう!!! 祈ろう!!!」

「「「「「祈るんだ!!!!!! 祈らねば我らは救われない!!!!!!」」」」」


 感極まるダルマン、ブーミヒ、レジーナ、ナラカ、バガディーン。その時戦況がまた動いた。大威徳明王がメフィストを地面に組み伏せ、6本の腕でタコ殴りにし始めたのだ。5人のテンションは更にヒートアップしていく。


「見ろ! 大威徳明王があん腐れ悪魔を奈落の底へと叩き落すぞ!」

「ざ、ざまぁみろです! く、くく腐れマ●●がァ!!!!」

「ブ、ブーミヒあなた。僧戦士ともあろうものがなんて品のない口を……!!」

「見ろ! 大威徳明王があのド腐れ悪魔に止めを刺そうとしている! 正義の仏罰!」

「ディーヴァ様……! さ、流石の強さ。あなたを愛したことは間違いではなかった! 悪魔を殺せー! 腐れド悪魔に仏の御力をお示しください!」


「「「「「「殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せッ!!!!!」」」」」



 虫の息と化し、もはやただピクピクと痙攣するのみのメフィスト。何もしなくてもあと幾時かすれば臨終のときを迎えるだろう。そして地獄に堕ちる。その死にかけのメフィストの肉体をしかしただひと時でも速やかにこの世から浄滅せしめるため大威徳明王は白毫に仏力を集中し極大の仏光を放たんとする。しかしふいにその集中を止め、遥か足元の地上に注意を移す。


「(む?)」


「焔山さん……」


 大威徳明王が見下ろすその先。そこに、聖女が悪魔憑の亡骸に寄り添い手を握るという、仏の常識ではありえない光景が繰り広げられていた――――。




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