第28話 俺はのんびりとパルトスに帰りたい 2

 音も無く近づいてくるのは何者か、微かに草をかき分ける音がして現れたのは……

「トーマ様、ただ今戻りました」

 ポピィだった。


「お、お前、なんでこんなに早く……はっ、そうだ、今はそれどころじゃなかった。ポピィ、俺は今から、あの盗賊たちに奇襲をかける。ここに隠れていろ」

(はあぁ、心臓に悪いって……ほんと、アサシンってのは敵にしたくないよな)


「わたしも、お供しますっ」

「いや、あぶな「大丈夫です!」い……」

「……分かった。そばを離れるなよ」

「はいっ」


「ん? 誰だっ?」

 まあ、こんだけしゃべっていたら見つかるわな。


「行くぞ、ポピィ!」

「はいっ!」


「う、後ろからも敵襲だああっ!」

 ジェンスさんたちに向かって、じわじわと包囲網を作ろうとしていた盗賊たちは、突然背後から現れた俺とポピィに中央を切り崩され、混乱した。


「よし、今だっ! 俺たちも行くぞっ」

 それを見たジェンスさんたちも動き出す。


 その後は一方的な蹂躙劇だった。残り数名になった盗賊たちは、慌てて逃げ出そうとしたが、シュナさんのファイヤーボールにやられ、ポピィに足を斬られて草原の上に転がった。


 俺たちは、盗賊たち二十一名を七人ずつひとまとめにしてロープで縛り、道のわきの草原に転がすと、馬車を道のわきに移動させて、ウルフの死体を片付けた。

 遠く離れた所で成り行きを見守っていた何台かの馬車が、俺たちに礼を言いながら双方向に通り過ぎていった。


「あ、そうだ、もう一人います。忘れてました」

 突然、ポピィが素っ頓狂な声を上げた。


「あ、そうだった。で、そいつはどうしたんだ?」


「はい、頭をナイフの石突きで殴って気絶させ、近くの木に巻き付いていた蔦で縛って、逃げないようにかかとの筋を切っておきました」


 ・・・・・・・・・


「俺、今度から女の子に声掛けるときは用心しようと思う……」

 ジェンスさんとベンさんが、森の中からヒーヒー泣いている魔物使いの男を抱えて戻ってきた。


「トーマの教育が悪いからだ」

「え、いや、ベンさん……」

「そうよ、こんな可愛い子に、何てこと教えてるのよ」

「い、いや、だから……」

「鬼畜……」


 うわあ、完全に俺が教え込んだことになっているよ……まあ、少しはそうだけど……いや、だから、こいつはそんなタマじゃないって……はあぁ……もういいや。


 結局、俺たちはそこに野営することにして、ベンさんが馬で一番近くのバグータの街に衛兵を呼びに行くことになった。

 どうやら、魔物使いの男が、この盗賊団闇の死神の頭領だったらしい。ミントスの村の近くの洞窟を本拠にして、この三年余りで相当な財を貯め込んだらしい。こいつらを衛兵に引き渡したら、途中で本拠地を探し、お宝をいただこう、ということになった。(盗賊の財産は見つけた者に所有権があるからね)

 ついでに、この頭領、足を斬られてヒーヒーうるさいので、ポーションで一応傷を治してやった。



♢♢♢


 そんなこんなで、結局、俺たちがパルトスの街にようやく帰り着いたのは、予定より一日遅れた四日後の昼過ぎのことだった。


 なんか、疲れたよ。


『お疲れ様です、マスター。いろいろと充実した旅でしたね』

(ああ、まあ、一言で言えばな……)

『二言で言えば?』

(いや、二言どころか、言いたいことはいっぱいあるぞ、俺は、俺はなあ……普通の少年の生活がしたぁ~~いっ!!)

『……無理です。冒険者を選んだ時点で気づくべきでしたね』

(くうう~……ハンスさんに頼んで、商人見習いにしてもらおうかな……いや、だめだ。俺は魔法を学びたいんだ、そうだ、魔法だよ。そして、魔法をド派手にぶっ放して、ドラゴンを倒すんだ。そのためには、やっぱり冒険者しかない。うん、トラブル、厄介事、どんと来いや、わははは……)

『……普通の少年の生活は、永遠の夢ですね、マスター』



「じゃあな、トーマ、ポピィちゃん。また護衛依頼があったら、一緒にやろうぜ」

(いや、しばらくは遠慮したいっす)

「またね、トーマ君。ポピィちゃん、今度お姉ちゃんと甘いもの食べに行こうね」

「はい、楽しみです。お世話になりました」


 ビーピル商会の前で、俺たちはジェンスさんたちと別れを交わした。

今回の護衛料と盗賊退治の報償金は合わせて、一人頭五万三千ベルという高額になった。というのも、《闇の死神》には、領主からギルドへの討伐依頼報酬とは別に、懸賞金付きの盗賊が六人いたからだ。

 さらに、盗賊たちが貯め込んでいた各種のお宝のうち、金はジェンスさんたちが六、俺とポピィが四の割合で分け、その他の宝石、アクセサリー類はハンスさんにかなり安値で買い取ってもらい、それも六:四で分けた。


 その結果、先の五万三千と合わせ、一人が合計十二万七千ベルを手に入れたのだった。


「どうしましょう……こんなにたくさんのお金、持っているのが怖いです」

「ああ、心配するな。ギルドにはお金を預けることもできるんだ。さっそく明日、二人で口座を作ってもらいに行こうぜ」

「はい! それなら安心です。えへへ……」


「さて、じゃあ、帰るか、《木漏れ日亭》へ」

「はい」



 ああ、一週間ぶりの《木漏れ日亭》だ。そんなに長い時間は経っていないのに、なんか懐かしい気がする。


「ただいまあ、今帰りました」

 観音開きのドアを押し開いて、大きな声であいさつする。


「お帰りなさあい、トーマさん、ラマータの街はどう……で……だ、誰、その子?」

 エルシアさんが固まった。

「た、ただいま、エルシアさん。ええっと、この子はポピィと言います。その、いろいろと事情がありまして……」

「まあ、お帰りなさい、トーマ君……あらあら、可愛い……妹さん?」

 いや、サーナさん、どこが似てるんですか? それに、ポピィはお姉さんです、はい。


・・・・・・


「まあ、そうだったの、大変だったわねえ」


 俺は、ラマータでの出来事をすべて話すことで、ようやくエルフの母娘に納得してもらうことができた。


「ポピィちゃんもあたしと同じ、ハーフなんだね。仲良くしようね」


(えっ、そうなの? エルシアさん、ハーフだったの? そう言えば、サーナさんの旦那さんて見たことないな。ああ、じゃあ旦那さんは人間で、もう……)

『ですね。お墓の中だと思われます』

(お前、そのへんはほんとドライだよな)


「はい、よろしくお願いします」


 まあ、エルシアさんとポピィは仲良くなりそうで、良かったけどね。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


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