第25話 ラマータでの最終日にあれこれやって過ごします 2
「そろそろ昼だな。どこかで飯を食おう。ポピィ、何が食べたい?」
「な、何でもいいです」
「ん、あのな、それ、俺に気を使っているつもりかもしれないが、逆だからな。俺があれこれ考えなくていいように、食べたい物をズバッと言ってくれた方が楽なんだぞ」
「あ、す、すみません、そんなつもりは……ええっと、それじゃあ、お、お肉、お肉が食べたいです」
「よし、じゃあ肉を食いに行こう」
で、結局俺が選んだのは、公園の屋台だった。だって、この街の店なんて全く知らないのだから、仕方ないだろう。屋台は結構美味いし、安いからな。
「あああ、おいしいですぅ!」
ほら、ポピィもすごく喜んでいる。下手に緊張して店で食べるよりこっちが正解なんだ。
数種類の肉串とジョッキにいっぱいのシノン(野生のオレンジ)のジュースを前に、ポピィは幸せいっぱいの顔で微笑んでいた。
「うん、うまいな。遠慮せず食えよ」
「はいっ! こんなにお肉を食べたのは、生まれて初めてです」
(……)
あ、うん、泣いてないぞ……肉の油がはねて目に入っただけだからな。
「んん……腹いっぱいだ。結構食ったな、ポピィも……」
「えへへ……もう一生食べなくていいかもです」
ポピィは、ぽっこり膨れた小さなお腹をさすりながら、恥ずかしそうに笑った。いや、肉くらい毎日でも食べさせてやるから……。
「よし、じゃあ少し腹ごなしをするか?」
「は、はい……ええっと、どこへ?」
「まず、お前の冒険者登録をして、初級ダンジョンに潜ってみよう」
俺の提案に、ポピィは一瞬緊張が顔をよぎったが、すぐに力強く頷いた。
「はいっ、お供します」
まあ、昨日の今日だから当然トラウマはあるだろう。でも、俺はあえて彼女をダンジョンに連れて行くことを昨晩から決めていた。トラウマは真正面から向き合ってしか克服できないからな。しょせん他人事だが……。
『マスター、ポピィさんは《木漏れ日亭》で雇ってもらうので、冒険者になる必要はないのでは?』
(うん、そうなんだけどな。雇ってもらえるかどうか、確定じゃないし、もし雇ってもらえなかったら、冒険者で稼ぐのが手っ取り早いだろう? まあ、心配するな。ポピィが自力で生きていけるくらいには鍛えてやるつもりだ)
『……マスター、もう彼女のステータス見ちゃってますよね?』
((ドキッ)……いや、ほら、たまたまさ、治療の結果を見るために……はい、見ました)
そうなんだよ。見てしまったんだよ、昨日、ダンジョンの中で……。動揺を隠すのに必死だったよ。だってさ、ポピィのギフトがすごいんだよ。見てみる?
***
【名前】 ポピィ Lv 7
【種族】 人間とノームのハーフ
【性別】 ♀
【年齢】 12
【体力】 132 【物理力】65
【魔力】 96 【知力】 102
【敏捷性】155 【器用さ】115
【運】 77
【ギフト】暗殺者
【称号】
【スキル】
〈強化系〉身体強化Rnk2 跳躍Rnk2
〈攻撃系〉投擲Rnk3
〈その他〉魔力察知Rnk2 隠蔽Rnk2
***
《暗殺者》だよ、暗殺者、アサシンだよ、あはは……笑うしかないね。しかも結構スキル持ってるし。これって、普通に《ギガントロック》の三人より強かったんじゃね? まあ、確かに力が弱いから、まともに戦えば勝てないだろうけど。
俺だったら、たぶん、奴らが油断した隙に殺(や)っちゃっていたかもしれない。
あ、それと、ポピィは俺より年上でした。お姉さんです、はい。
ちなみに、今の俺のステータスはこうなっている。
***
【名前】 トーマ Lv 19
【種族】 人族(転生)
【性別】 ♂
【年齢】 11
【体力】 332 【物理力】150
【魔力】 305 【知力】 386
【敏捷性】305 【器用さ】355
【運】 124
【ギフト】ナビゲーションシステム
【称号】 異世界異能者
【スキル】
〈強化系〉身体強化Rnk6 跳躍Rnk5
〈攻撃系〉打撃Rnk3 刺突Rnk5 棒術Rnk2
〈防御系〉物理耐性Rnk3 精神耐性Rnk5 索敵Rnk5
〈その他〉鑑定Rnk5 調合Rnk2 テイムRnk1
***
半年前よりレベルが6上がり、新たに〈棒術〉と〈テイム〉のスキルを覚えた。棒術はメイスを武器にしていたからだろう。テイムは、まあ当然神獣スノウのお陰かな。テイムした覚えはないんだけどね。
♢♢♢
ポピィの冒険者登録は何事も無く済んだ。ちょうど、冒険者が一番少ない昼時を選んだのが良かったな。
ギルドを出た俺たちは、受付の人から聞いた近くの武器屋に来ていた。ポピィの武器と、金が足りるなら簡単な防具を買ってやるためである。
「らっしゃい……なんだ、子どもか? 何の用だ?」
店の奥から出てきたいかつい筋肉のオヤジが、ぶっきらぼうに言った。
「ああ、当然武器を買いに来たんだが、もういいや。帰るぞ、ポピィ」
「っ! ちょ、ちょっと待て」
オヤジは慌てて呼び止めたが、俺は入口の所で振り返って言ってやった。
「子どもは迷惑なんだろう? だったら、子どもにも喜んで武器を売ってくれる、貧しい武器屋を探すさ」
「ぐぬっ……言っておくがな、うちより良い武器を売っている店など、この街には無いぞ」
「へえ、じゃあパルトスの街に帰ってから買うからいいよ。腕のいい武器屋の知り合いがいるからね」
「何、パルトスだって? そ、その腕のいい知り合いって、だ、誰だ?」
「ロッグスさんだけど、あんたには関係な……」
「やっぱり、そうか……」
武器屋のオヤジはそうつぶやくと、いきなり俺たちの前に土下座した。
(えええっ? な、何? どうした?)
「すまねえ、この通りだ。師匠の知り合いに失礼な態度を取ったとあっちゃあ、この腕をへし折ってお詫びするしかねえ。どうか、許してくれ」
(うわあ、めんどくせえ。だったら最初からちゃんと応対しろよ)
「ええっと、あの、もういいから、どうか立ってくれ。ロッグスさんのお弟子さんなの?」
「おお、許してくれるか、ありがてえ。おうよ、俺はロッグス師匠の一番弟子のラングだ。お詫びに目いっぱいサービスさせてもらうぜ。どうか、見ていってくれ」
そこまで言われたら仕方がない。俺は、棚に並んだ武器を見ていった。
「ポピィ、これがいい。ちょっと握って見てくれ」
俺はすぐに一本のダガーナイフを取り上げて、ポピィに手渡した。当然、鑑定のスキルは使ったよ。
ポピィには少し大きいかなとも思ったが、受け取った彼女は、軽々とそれを扱った。
「すごくいいです。えっと、こちら側の先っぽがギザギザになっているのは……」
「おう、兄ちゃん、さすがに良い物を選んだな。嬢ちゃん、それはな、ロープとかを切ることもできるし、突きさして引くことで傷がより深くなるんだ。黒鉄を混ぜてあるから丈夫さは保証するぜ」
「なるほど……で、でも、きっと高いんでしょうね?」
「ああ、まともな売値は一万二千ベルだ。だが、お詫びのしるしに五千に負けとくぜ」
うん、五千なら十分にお買い得だ。だけど、もう少し頑張ってもらおうか。
「この革の胸当てと、籠手、ベルトをつけて、六千ベルでどうだ?」
「うぐっ……かああっ、足元見やがってえぇ! ああ、しようがねえ、その値段で売ってやるよ」
(よしっ、勝ったな)
『何の勝負をしてるんですか……(ためいき)』
さっそくポピィに防具を装着させ、微調整をしてもらう。
「ありがとう。今度、またこの街に来たときは装備を買わせてもらうよ」
「ああ、またな。師匠に〝ラングは元気にやっている〟と伝えてくれ」
「分かった。必ず伝える」
俺たちは、ラングのオヤジに手を振って別れを告げ、ダンジョンに向かった。
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