6、最高の1時間

その着信音は、8月29日の朝11時頃かかってきた。見た事の無い番号。少し迷ったけれど、一応、出てみた。


「元気か?」


その声は、名乗らなかったけれど、誰なのかはすぐに分かった。珂玖先生だ。


「せ、先生!?お、おはよございます!!」


「ははは、元気そうだな。ところで、今日は暇か?」


私は、先生の質問に、思わず期待を抱いてしまった。


「はい!暇です!!もう宿題も片づけたし、予習までしちゃったし、部屋の掃除とか、撮りだめてたドラマもぜーんぶ見ちゃって滅茶苦茶暇です!!!」


私は、何とも分かり易く、先生の誘いを待っていたかのように答えた。


「ならば、家へ来ないか。ケーキと紅茶くらい、出してやる」


「え!?良いんですか!?」


「構わん。私が駅まで迎えに行く。13時に待ち合わせでいいか?」


「はい!」


私は、慌ててクローゼットをひっかきまわし、マスカラと、たっぷりのグロスを塗って、髪も、アイロンで巻いた。少しでも、いつもと違う、いつもより少しでも、可愛い自分で先生と逢いたかった。


持ち物を確認すると、颯爽と駅へ向かった。


駅について、キョロキョロしていたが、先生らしき人は、中々見つからない。まぁ、無理もない。まだ、約束の時間より、15分も早い。


(ちょっと…早くきすぎちゃった…)


その時、ソワソワが止まらない私の背後から、急に手で、目隠しをされた。慌てて後ろを振り返ると、そこには、メガネ姿の珂玖弥先生がたっていた。


「ふふふ。相変わらず、私に逢いたくて仕方ない、みたいな顔をしているな。莉子」


「え…そ、そうですか?」


今までの所、全部が全部、先生主導で動いていることに、私は、嬉しくもあり、だけど、すねるような感覚もあった。きっと、私ばっかり、先生がすきだからなのだろうけれど…。


「現にこうして15分以上前から私を待ち、ソワソワして、キョロキョロして、グロスなど、べたべたではないか」


そう言って、先生は悪戯っぽく口元だけ微笑んだ。


「い、いけませんか?先生に…可愛いって…思ってもらいたい…って言うの…、いけませんか?」


「…良いんじゃないか?そんな風にいじけるな。分からないのか?私だって、こうして15分以上前から来ていたし、お前の可愛い動作を見ているのが楽しいんだ。ダメか?」


「…すきです…先生…」


私は、その時、そう口走ってしまった。しかし、先生は、なんの驚きも無しに、躊躇いもなく、言った。


「そうだな。私もだ。莉子」


私は、その言葉に、今まで感じた事の無い喜びが溢れた。


「私、先生をすきでいて良いんですか?くちづけしてくれますか?セックスしてくれますか?一緒に、いてくれますか?」


「はっはっはっ!お前は本当に可愛いな」


先生は、お腹を押さえて笑い出した。私は、最初こそその笑い声にあっけにとられていたが、今、自分が言った事を、改めて頭の中で印刷して、まじまじと読み返すと、その恥ずかしさが分かってきて、思わず顔を手で覆った。


「…せ…先生…そんなに笑わないでください!…その…只…ちょっと、へんなテンションだったって言うか…」


「ふふふ…まぁ、いい。家へ行くとするか」


そう言うと、先生は、なんの躊躇もなく、私の手を引いて、歩き出した。その手は、思ったより小さくて、でも、爪は奇麗に手入れされてて、マニキュアはつけていなかった。手荒れもしてなかったし、綺麗な手だった。


(こんな…奇麗な指で…私、触られてたの?)


などと、私は、またエロい妄想をしてしまうのだ。先生の手から伝わる温度が、夏なのに心地よくて、先生の履いているひざ丈のスカートがひらひら揺れるたび、鼓動が高鳴った。







「遠くて済まなかったな。今、冷たいモノでも入れよう。適当に座っててくれ」


「は、はい…」


(わー…先生の家、綺麗…)


ソファに腰かけて、部屋をぐるりと見渡す。ごくごく普通の女の人の部屋…だった。


「はいよ」


カタン…。


先生は、テーブルの上に、氷の入った麦茶を差し出してくれた。


「あ、頂きます…」


と、コップを持ち上げた瞬間、先生が、私のスカートをたくし上げた。思わず、バランスを失って、洋服の上にほとんど飲んでいない麦茶をびちゃびちゃに零してしまった。それに、悲劇だったのは、それが、ワンピースだったということ…、と、服が乾くまでの間、借りようとした先生の服が、どれも細すぎては要らなかったということ。


私は、バスタオルを体に巻いて、先生の家で過ごすことになってしまった。


「もう…先生がいきなりあんなことするからですよ?」


「………」


「先生?」


あれこれさっきまで話していたのに、先生はいきなり黙り込んだ。


「…美味そうだな…」


「へ?」


そう言うと、先生の行動がなった。私のバスタオルをはぎ取ると、ブラを乱暴に持ち上げ、胸を揉みだした。余りに唐突な始まりに、私も付いていけない。パンツはスルンっと脱がされ、カーテンも閉められていないのに、先生はソファでセックスを始めた。


そして、初めて、先生が、服を、脱いだ。私は、先生の胸を思いっきり撫でまわした。今度は、声を出すのは私だけではない。乳首を舐め回し、フレンチ・キスを交わし、お互いの体の気持ちいいところを触り合う。


最高の1時間が、終わった―――…。

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