4、待ってたんです!

「ねぇ、管野先生、格好いいよね」


ある女子の言葉が、莉子の耳に届いた。


「格好いいって?」


莉子は、たまらず、初めての子との会話に、ずけずけと入って行った。


「ほら、安達さんも思わない?口調とか、身長とか、体形とか、顔とか…。なーんか、全部完璧って感じ過ぎて、男性教師だったら大変な騒ぎだな…なーんて話してたの!」


(珂玖弥先生は、女でも十分よ!)


なんの対抗心か、莉子は理不尽な怒りを感じた。


「でも、この前の犯してやる発言は過激だったよね」


「うん!あんな怒り方する教師、いるんだね」


「でも、あれは、携帯鳴らした生徒が悪いんだし、先生は、色んな意味で、駄目だよ、って伝えたかったんじゃない?」


と、これまたなんの対抗心か、珂玖弥先生をかばう莉子。


「安達さん、管野先生のこと、下の名前で呼ぶんんだね」


「え?あ…あ、あれよ、なんか、格好いいじゃん。それこそ口調とか、身長とか、体形とか、顔とか…。だから、名前も、格好良いなぁ、下の名前で呼びたいなぁ…って思ってさ」


「あぁ…。なんかわかるかも!」


「でしょ!でしょ!」


(恋は、隠してなんぼ!!)


その時、やっと自分が珂玖弥先生に対して…イヤ、その生徒たちの反応に対して、過敏になりすぎていたか、莉子は気付いた。


(こんな分かり易く先生がすきだって表現してたら、もう先生にくちづけもしてもらえなくなっちゃう!!)


「でも、先生、あれは言い過ぎだったかもね」


慌てて取り繕う莉子。


「あぁ、まぁね。犯すって、犯罪だからね」


(私、犯されたんだけど♡)←なぜか、♡がつく莉子。


「でも、本当に完璧な大人の女性って感じはするよね」


「うんうん!」


そこは、なんの躊躇いもなく、頷いてしまう莉子。


もう珂玖弥先生に出会ってから、てんてこ舞いの莉子だったが、高校生活が、こんな形で始まるとは、思ってもみなかったから、頭も心も羽が生えたように、浮かれてしまう。そして、何より、莉子が励んだのは、リーダーの勉強だった。ちょっと分からないことがあったら、すぐ、珂玖弥先生に聞きに行った。その度、珂玖弥先生は相変わらずの口調で、でも、なぁあんにもなかった顔で、的確に要点を教えてくれる。


言って置くが、莉子と珂玖弥先生が、くちづけやセックスを毎日しているわけではない。勿論、毎日したいと、莉子の方は望んではいた。でも、下駄箱にメモが入っていたのは、入学して2日目の放課後だけ。その日以来、先生は、朝もどんなに目を凝らしても、あのスクランブル交差点にも現れない。


毎日、授業で会っても、職員室にお邪魔しても、珂玖弥先生は素っ気ない。


(飽きられちゃった…?只の…遊びだった…?)


不安と、寂しさだけが募る。そんな日々が、ひと月ほど続いた。トイレに閉じこもって、涙を堪える。


(このまま、永遠に、先生とくちづけできなかったら、セックス出来なかったら、私、永遠に恋、出来なくなる…)


涙を堪えきれず、ポタポタ…トイレの水溜まりに涙が落ちた。その時だった。


コンコン…。


トイレのドアがノックされた。やばい。出なければ。涙を、ハンカチで拭って、そぉっと扉を開けた。…瞬間、ドン!と体がトイレの内側へと跳ね飛ばされた。


「キャ!」


「たまったか?」


「か!珂玖弥先生!!」


そっと、トイレのカギをかけると、洋式トイレの蓋を閉じ、そこに珂玖弥は莉子をしりもちをつかせるかのように、強引に座らせた。そして、何も言わず、両太ももを持ち上げると、その体の間に、飛び込んできた。そして、待ちに待った、くちづけを、莉子にした。抵抗…?するはずがない。股が開かれたそんな恥ずかしい状態でさえも、莉子は、体総てを珂玖弥に預けた。


トイレの外で、女子生徒たちの談笑が聴こえる。声を、あげる訳にはいかない。それが、じれったい。感じる。たまらない。すごく、エロイ。


一瞬の間に、珂玖弥は、莉子を丸裸にしていた。体中あの柔らかい舌で、舐め回される。気持ちいい。ひと月ぶりのくちづけ。セックス。もう何でもいい。珂玖弥の指先の動きが激しくても、声は上げない。


⦅はぁ……⦆


と、溜息を吐いた瞬間、莉子は、人生2回目のセックスを完了させた。


もう、声を上げてもいいのに。だって、とっくに、授業は始まっている。


「…サボっちゃった…」


「どっちが大事だったんだ?」


「聴かなくても、分かってますよね」


「ふふふ。莉子。お前は本当に可愛いな。こっちも、じらすのは楽しいが、じれったいのは、中々我慢がいってな。このひと月、どうお前を犯そうか、そればかり考えていた。トイレの蓋を拭いて、パンツをはいて、保健室にでも行こう。私がついていく。そうすれば、怒られる心配はないだろう」


その言葉に、トイレの蓋を見ると、証がビチャっと残されていた。


「!!」


一気に、莉子の顔が赤くなる。


(こんなに出てたの!?ヤダ!!恥ずかしい!!)


「大丈夫だ。それくらい、私の腕いいと言うことだ。まぁ、その顔も、そそられるがな…」


そう言って、珂玖弥は笑った。そっと珂玖弥だけが最初トイレから出ると、トイレの中で、2回目のセックスを思い出して、もう莉子は興奮してしまった。乱暴なプレイは、初めてだ。って言っても、2回しかしたことないし、相手は同じ人だし、誰も見ていないのだから、恥ずかしがることなど、無いのだけれど、珂玖弥が、妙に冷静で、遊ばれている感満載だ。


「私だって…珂玖弥先生を夢中にさせたい…」


トイレの中でボソッと呟いた。


「お前には、十分、夢中だぞ?安心しろ」


「!?な、なんでまだいるんですか!!」


トイレの外で珂玖弥先生の声がしたから、莉子は慌てた。


「言っただろう。保健室に一緒に行くと。お前は馬鹿なのか?それも、萌えか。ははは」


(…もう…)


このまま、ずっと、こんな風にからかわれながら、高校生活が続くのだろうか?


『一生、卒業したくない』


そう思う、莉子なのだった―――…。

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