第151話 1周年記念配信⑤

朱里『まあ、この配信がなかったらいま私達はここにいないわけだ。そう考えると凄いことだよね』

撫子『それは本当にその通りですね。お二方には感謝しかないです』

玲音『初配信はあれだけど』

茶葉「おいっ」

玲音『ははは、冗談ですやん』


 私達の初配信は30分程度で、切り抜き風の編集で重要部分だけ切り取られたとしても15分以上あった。

 それを見た私達はあーだこーだ言いながらそれぞれで感慨にふけっていた。


美波『それにしても見た目が結構違う感じ』

百合『うんうん。今の衣装は半年後くらいに出た新衣装だから』


 桜木つぼみの最初の衣装はシンプルで、ふらっとお花見に来た女子高生というのをイメージして作ったそうだ。ちなみに、私はセンスがないとかなんとかで口出しをほとんどさせてもらえなかったのだが……。

 デビューしてすぐから新衣装作成に取りかかり、今はそちらがメイン衣装になっている。

 香織曰く、もう衣装データもどこかに行っちゃったと言っていて、数年経った今は初期衣装が配信に使われることはない。

 今となってはたくさんの衣装が用意されていて、2代目の衣装も使われる機会は多くない。ただ、春に行われる配信とかは未だに2代目の衣装で行っている。どうやらこの衣装でやると気合いが入るそうだ。


 ちなみに、今のメイン衣装は私のものと一緒に作った奴。お気に入りだそう。


百合『でも久しぶりにあの衣装で配信しているところを見たい』

つぼみ『それがね、本当にファイル紛失しちゃってないの。私もできれば取り返したいんだけど……』

玲音『資料を基にまた作り直してみたりは?』

つぼみ『まずその資料がないんだよねぇ……。当時のノートパソコンに入ってて、今は別のデスクトップだから』


 ちなみに、香織のパソコンは大抵私に譲られる。私のパソコンは香織のパソコンの中古品であることが多い。

 つまり、そういうこと。まあ察してほしいわけだ。


柄爲『なんか茶葉先輩ニヤニヤしてません?』

茶葉「まあね~」


 この笑みを抑えることができず、魔法カメラを通して配信に私の不敵な笑みが映ってしまっている。

 その最中、私は配信を管理しているメインモニターではなく、サブモニターの画面の方でカチカチパソコンを弄る。

 整理されたデスクトップにゴミ箱と共にただ1つだけ置かれているファイル。そのファイルを開いて、“VTuber”のファイルを開いて、そのさらに奥の“マネジメント”を開いて……。

 そうして行き着くファイル。“桜木つぼみアーカイブ”。

 その中には過去から今までの桜木つぼみに関係するありとあらゆるファイル、データのコピーが保存されていた。

 そのファイルの中にはまだファイルが広がっていて、その中の“衣装”というファイルを開く。

 そしてそして、そのファイルの中のもう1つのファイルの名前が“初期衣装”である。


 そう、私は桜木つぼみの初期衣装を持っているのである。


 さて、これを言おうか、私の中で宝物として保存しておこうか。もちろん選択は大公開である。


茶葉「みなさま少しよろしいですの?」

美波『あら、どうされたのかしら?』

茶葉「皆様、グループをご確認くださいませ」


 私はこの初期衣装ファイルをSunLive.ライバーのチャットグループに投稿した。


つぼみ『……まじ?』

百合『お宝すぎる! ていうかスタッフさんがバタついてて面白い』


コメント

:何があった

:まさか……?

:さすが裏方代表

:神回展開来た

:【SunLive.公式】こちらにも共有お願いします。

:公式www

:まじかよ

:つぼみちゃんがマジで唖然としてて草

:茶葉ちゃんのどや顔北

:早く見せて~!!




茶葉「はい、私持ってるんですよね」

つぼみ『ええぇぇぇぇええ、なんで持ってるの?!』

茶葉「あんたねぇ、私が何年あんたと一緒にいると思ってる? どうせなくすだろうと思って保存しておいたぞ」

百合『てぇてぇ』


 おい、真顔で言うな。


つぼみ『なんか、今日一番感動してる』

律『すごい、こんな設定資料初めて見ましたよ』

百合『私も初めて……。多分未出?』

つぼみ『うん。そうだと思う』


 香織は適当に見えて、案外設定を作り込むタイプだ。

 実はしっかりと三面図があって、どういう素材を使っているのかのイメージまで作るほどには作り込む。しかし、そう言った資料はほとんど表には出さないのだ。もっとも、今回の初期衣装の三面図は1度も外に出したことはないし、三面図以外にも出したことのない資料はたくさんある。

 2Dに登録されなかった表情差分とかね。


美波『えっと、これは?』


 そんななか、凪ちゃんがファイルの中からとあるイラストを見つけたみたいだ。


美波『これは、秋月ミミ?』

つぼみ『ああ、これは茶葉ちゃんだね』

茶葉「ああ、あれか。配信に出るかもって言ってつぼみが勝手に書いたイラストだね。紛れ込んでたか」

百合『なにそれなにそれなにそれ!! え? どこにあった?』


 百合ちゃん大興奮。


 私が本格的に配信に出だしたのは桜木つぼみが伸び始めてからしばらくしたときで、デビュー当時の私自身は配信に出る気はこれっぽっちもなかった。

 ただ、もしかしたら出るかもしれないということで香織が一応私のイラストを考えていたのだ。しかも名前付きで。

 その名も“秋月ミミ”。

 香織が“桜木つぼみ”で春なので、私はその反対の秋。そう考えてデザインしたキャラクターだ。

 秋っぽい赤やオレンジ、それから月の色である黄色。そう言ったカラーをメインにした少女のイラストだ。ちなみに、うさ耳と聞いて思い浮かべるピンと立った耳ではなく、ロップイヤーのような垂れた耳が付いている。


 結局採用されずに時が流れ、桜木つぼみより気合いの入ったデザインだったので、主役が薄れるとして“茶葉”というキャラクターが誕生した。


 ちなみに、この資料はSunLive.側には一切提示していないものなので、現地では若干ざわついているそうだ。




コメント

:早く見せてくれ~

:焦らすね

:マジで気になる

:頼むよ

:早く見せて!!

:え? それでデビューし直さないか?

:未出だと?!

:よくなくならないでおいたな

:印刷して取っておいてほしい

:まじで貴重資料過ぎる

:秋月ミミ…… 

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