第149話 1周年記念配信③

 鷹治が保存していた私達の初配信のURL。当時はまだ動画デビューも主流の時代であり、なぜわざわざ1発勝負の配信にしたのか当時の私達の脳を解剖したい気分だ。動画であればまだマシであったのだが……。


梓『では、皆さんにサムネイルをお見せしましょう』

つぼみ『え? 本当にやるの?』

梓『もちろんです。台本にもそう書いていますから』

茶葉「私、ミュートにしていいかな……」

つぼみ『ダメダメダメ! なんで茶葉ちゃんだけ逃げようとしてるの?! あの初配信の責任はあなたにもあるでしょうに!』


 オンライン参戦になってしまったのだからその利点を最大限生かそうと策略する私であったが、香織による猛抗議によってその考えは実現出来なかった。

 梓による『ぽ~んっ!』という情けないセルフSEにより映し出された私達の初配信サムネイルはひどいものだ。

 検索エンジンで『画像編集 スマホ おすすめ』と調べて一番上に出てきた画像編集アプリを使って作った渾身(当時)の作品に使われているフォントは、最もスタンダードなゴシック体のそれ。単純なピンク色の縁取りと共に白色で書かれた『桜木つぼみの初配信!』という文字列は、ただ貼り付けただけの平面的な配置と相まってチープな印象を与える。

 画面左側に置かれた“桜木つぼみ”は、当時「どう? かっこいい?」とかいいながら頑張ってポーズを取らせたもので、両腕を使って“C”のような形を作っている。それがまた絶妙にダサい。当時はあれほどかっこよい、よくできたサムネイルだったものも、今見れば初心者高校生の創作に過ぎない。


美波『茶葉ちゃん……、成長したね……』

茶葉「んぐっ……」

朱里『人間って継続するとこんなに上達するんだ』

茶葉「かはッ!」


コメント

:パソコンクラブで草

:頑張って作ったんやろなぁ……

:おじさん、成長に涙する

:これはひどいwwww

:人間誰しも最初は初心者だよ!

:それにしてもこれはダメだろw


茶葉「お前ら好き勝手言いやがって……」


 私がオンラインなのを良いことにコメントもメンバーも好き勝手わいわいサムネを批評している。現場にいたら今頃発狂しながら室内を叫び回っているところだ。


茶葉「ていうかつぼみ?! あんたこっち側でしょう?! 何黙って俯いてんだ!!」

つぼみ『……』

茶葉「つぼみ?!」

つぼみ『…………』

柄爲『えと、先輩はさっきから意識飛んでます』

茶葉「つぼみ……」


 どうやら香織はあらゆる方面からやってくる羞恥の暴力に耐えきれなくなってしまったようで、一時的に意識を上空の彼方へと避難させている。

 うん、的確な処置だ。


梓『では、サムネイルへの批評が終了したところで、早速本編を見ていきましょう』


 はぁ、本当に見るんですか……。

 いま、私の心臓はひどい速度で脈打っている。“恥”とはよくできたもので、私の行き場のない羞恥心は耳を真っ赤に染め上げている。

 ヘッドフォンを外し、少し倒したゲーミングチェアの背もたれに寄りかかり深く息をつくと、自信の鼓動が聞こえる。


茶葉「もう、おうちにかえりたい……」

つぼみ『帰ってるじゃん』

撫子『あ、先輩お帰りなさい』

つぼみ『ただいま。ねぇねぇ撫子ちゃん、私なんか嫌な夢みちゃった! あのね、私の初配信が公式配信で全国公開される夢!』

撫子『それは災難でし――』

梓『はーい、茶番はそこまででお願いしますね~。時間押してますんでとっとと流しますよ!』

つぼみ『そんな! 殺生な!』

梓『うだうだ言ってんじゃないですよ! さぁ、行きますよ!』


 梓ちゃんがそういうと、画面に映し出され静止していた私達の初配信の映像がついに動き出してしまった。


 地獄の始まりである。

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