第147話 1周年記念配信①
梓『お待たせしました! ただいまより、SunLive.1周年記念配信を開始します!』
『『『『いぇええええい!!』』』』
玲音『なんか安定感ねぇな』
梓『くっ……、ま、まあまあ。えっと、本日の司会を務めます礼文梓でございます。どうぞよろしく。なお、以下9人の紹介は割愛させて頂きます』
朱里『おいおいおい』
ついにSunLive.の1周年記念配信が始まった。私は画面共有で映し出されている配信画面を見ながらじっと声を潜めている。別に潜める必要はないのだが、とりあえずじっとそのときを待っている。
元々司会をする予定だったのはもちろん私。急遽代役として梓ちゃんが司会進行を行ってくれている。
私はまだ配信にはいない。音声もミュート状態だ。合図があるまでこの状態。
梓『ということで、ついにSunLive.も1周年です。とは言っても私達2期生3期生は後発組のため、まだ1年もここにはいないわけです。まず初めに1年間フルで駆け抜けた1期生のお二人にお話を伺いましょう!』
そう元気よく言うと、カメラがつぼみをでかでかと映し出した。
つぼみ『うちの茶葉がすんません。まさかここでやらかすとは……』
はいその通りです。本当に申し訳ありませんでした。
これに至ってはもう100パーセント私の危機管理能力の欠如が引き起こしたPONだ。PONというローマ字3文字だけでは表現出来ないほどのやらかしである。
つぼみ『まっ、とりあえずその話は置いといて! えっと、このSunLive.という事務所が本格的に始動したのは1年前です。私はそれより前から個人勢として活動していて、茶葉ちゃんと二人三脚、右も左も分からない状態。そんなところから始まりました。
時折あのときVTuberを始めたのは正しかったのか。そう思うことがあります。だって私がVTuberをやっていなければ、茶葉ちゃんはもっと自由に羽ばたけたかもしれないから。
設立が本格的に始まったとき、茶葉ちゃんがずっと不安そうな顔をしていて、事業が失敗したらどうしようとか、私に管理職は務まるのだろうかとか、そういったことを常々言っていたことを覚えています。
ただ、どうやらこれらの心配は杞憂であったようです。今こうして仲間達と1周年を迎えることができたからです。正直この場で直接茶葉ちゃんの顔が見られないのは心細いです。ですが、彼女はSunLive.の一員として一緒に駆け抜けてくれた。私はここまでたくさん支えられてきました。茶葉ちゃんには本当に支えられてきたんです。もちろんみんなにもね。
だから今日は最高な日にします。離れた場所から参加してくれる相棒のためにも、こうして映像を見てくれているみんなのためにも。
今日は本気で楽しんでいってください!』
ここまで身振り手振りで話していた彼女の体がきちっと前を向き、キリッとした声でそう締めくくった。正直私は彼女がここで悲しそうな表情をするのではないか。そう思っていた。でもどうやらそれは間違いだったらしい。
彼女は前を向いている。1人のVTuberとして、見ているすべての人を元気づけるために。
そんな彼女の気持ちが届いているかのように、コメントにはお祝いのメッセージがあふれかえる。
「はぁ……、すごいなやっぱり」
コメント
:真面目なつぼみだ
:そりゃ不安だよな
:1周年おめでとう!!!!
:3期生から入った新参者だけど、本当にこの事務所に出会えて良かった!!
:設立の時の裏話……
:おめでとう!!
:絶対楽しむよ!
:既に最高
:マジでおめでとう
:まさかここまで伸びるとは思ってなかった
:ケーキ用意したよ~! 画面の前で祝ってます!
メッセージで来たそろそろ出番という合図。私はみんなにどう謝るか。どうこのミスを挽回するかということばかりを考えていた。でもそればっかりではダメだ。
彼女のように前を向かなければならない。私ももう1人のVTuberだ。“裏方だから”なんていう台詞は、ただの言い訳にしか過ぎない。
私がここでしょんぼりとしていては、香織の思いを踏みにじることになる。
私達はただこの空間を楽しめば良い。その楽しさはリスナーへと伝染し、指数関数的に増加する。
トラブルは臨場感のためのスパイス。この状況を生かしてこそSunLive.のVTuberだ。
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