第144話 トロンボーンスライド②

「おぉ? おっ……! おお……」


コメント

:悲報 茶葉ちゃん壊れる

:wwwww

:音楽関係者……

:やっぱ難しいんやなぁ……

:でも上手いよ

:むずかしいよな。その気持ち分かる


 画面左側を縦横無尽に動き回るカーソルがずっと変な音を奏でているが、ある程度上手くなっているような気はする。

 やはり実際の楽器と感覚が異なっている。それはわかりきったことではあるが……。

 いくらやっても変な音。しかもそれが半音だったりするから気持ちが悪い。


「ちょっと一回簡単な曲にしよう」


 聖者の行進のソロパートで練習をしたところで一切腕前が変わらなかったことに若干の悲しさを覚える。まあしょうがないということで、とりあえず簡単な曲にする。


「初めてにしては上手い? そうなの?」


 どうやら他の初心者に比べると大分マシな方らしく、それである程度自我を保てている。このコメントがなかったら今頃オットセイのような声を出しながら家中を駆け回っていたかもしれない。

 だって私は作曲家!!!! 玲音ちゃんのオリ曲作ってるの!!!


 音楽を生業(というほどでもないが)としている身からすると、このゲームはプライドをかけた戦いなのである。


「私を舐めるなよ」


 ここから私の猛特訓が始まった。








 ひたすら集中し、コントローラーに全精神を集中する。曲はさくら。日本人として完璧に弾きこなしたい。


「伝われッ……! 私の思い!!」


コメント

:思い伝えたところで上達しないと思うけど……


「うるさいッ!!」


 右からゆっくり流れてくるラインに、慎重に慎重にカーソルを合わせていく。

 最初の一音が重要――。


ポォブッッ!


「あ"あ"! ムカつく! もう1回!」



「――ああ! もう1回!!」



「――……ダメだ!」



「――やっぱりここがずれるんだよな……」



「――くそッ!」ドンッ……! (台パンの音)



~~~~~~~~~~~~~~~~~


コメント

:ちょっとまって、エグいでしょ

:え?コメント見てる?

:さすがにゲシュタルト崩壊

:いや、これは……

:wwwwww

:突如始まる耐久配信

:【柊玲音】まだやってるの?

:誰かコイツを止めてくれ……


 配信時間が8時間を過ぎた頃、まだ彼女はさくらを吹き続けていた。実に7時間、ただひたすらにさくらを吹いている。


「ああ、完璧!」


 そして――


 “S”という文字が映し出される画面。彼女は完全にトロンボーンスライドを理解したのだ。


「私は神になる」


コメント

:【SunLive.公式】ドクターストップです




===配信は終了しました===


【Trombone Slide】トロンボーンの音ゲーだ?経験者を舐めんなよ【茶葉/SunLive.】

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流行だかなんだかしらねえが、経験者を舐めるなよ。


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