第139話
「ふー、こんなもんかな」
つい先日のように思える東京遠征から時は流れ、季節は夏になった。
雑草の茂る畑からは暑苦しい蝉の声が聞こえ、窓の外を見れば空にもこもこと入道雲が浮かんでいる。
活動休止が明けて浜松に戻ってきてからは、今まで以上に配信を頑張ってきた。お陰でチャンネルの登録者もみるみる伸びてきて、SunLive.内でも香織に次ぐ2位だ。
頑張ってきたと言っても他の子達に比べれば配信頻度は少なくて、やはり香織のお陰というのもあるのだろうな。
ここ最近の私達は忙しくて、実際その影響で香織もこの家にはいない。その忙しい原因は、SunLive.1周年記念配信だ。
既にその配信まで1ヶ月を大きく切っていて、香織は先日からその配信の日まで東京に滞在することになっている。私は直前になったら東京へ向かう。私も私でやらなければならない仕事がたくさんあり、それを成すためには東京のスタジオでは機材が足りない。
音楽関連の機材は私の部屋の方が整っている。玲音ちゃんのオリジナルソングのミックス作業を終わらせなければならないのだ。
そんな私一人だけの広い家。カーテンが閉められて、暗く静かな部屋の中にはパソコンのファンの音と、蝉の声が響いている。
さて、冷房が効いて寒いくらいな部屋の中、とある新企画の準備を終わらせた。
それは、『SunLive.ニュース』だ。
それがどう言うものかは名前を見ればざっくり分かるだろう。SunLive.内で起きたニュースをリスナーに面白おかしく伝えようというコーナーだ。
これからは月に1度のペースでやっていこうと思っている定期配信。配信でやった後にまとめのようなものを動画で投稿しようということになっている。
最近の切り抜き班は凄まじくて、私が配信を終えれば数時間後には切り抜きが上がっていたりする。従って、その速度に負けないように配信の前に動画を準備したのだ。配信の終了と同時に動画を投稿する。
つまりは、動画は配信の切り抜きではなく、全くの別物ということになる。切り抜きの人は好きに配信を切り抜いて貰っても構わない。そこら辺は言葉で説明するにはややこしい。
SunLive.は現在10人で活動している。VTuber事務所としてみれば人数が少なく小規模だ。だが、事務所としてトップクラスの人気を誇ってはいるはずだ。
確かにほとんどのタレントが登録者100万人を超えていたり、それに近い数字を持っている事務所がある。それに比べればうちは香織しか超えていないので小さいかもしれない。しかし、併せて100万行かないような事務所だってたくさんある。ネットのまとめやランキングなんかを見てもトップ5には必ず入るような事務所にまで成長した。まだ本格的に活動を開始してから1年経っていないのにも関わらずだ。
このように、SunLive.という事務所は、今最も伸び幅が大きい事務所と言っても過言ではない。そのため、いろいろなことが発生するのだ。
まれに放送事故のようなものをやらかしては一気に登録者数が伸びたりと、話題が絶えない。それをまとめてやろうではないかということだ。
ここで、改めてSunLive.のネットで言われているような評判のようなものを紹介しようと思う。
まず、SunLive.は競争の激しいVTuber界隈ではわりと最近現れた新しい事務所だ。立ち上げたのはVTuberという概念が誕生してすぐの頃から個人勢として配信をしていた桜木つぼみ。事務所立ち上げ時点で個人勢としてはトップクラスの知名度を誇っていた。
落ち着くときもあり、叫び散らかすときもあるような緩急のある配信が人気であり、雑談やゲーム、歌ってみたにちょっとした動画など、いろいろな方面の配信、及び動画配信を行っていた。中でも人気なのがイラスト。以前イラストレーターとして活躍しており、当時のペンネームのまま活動している。そのためイラスト配信は彼女の売りとなっている。
彼女はVTuberを始める前からインターネット上で桜木つぼみとしてイラストレーターの仕事を行っていた。小説の挿絵やグッズのイラスト、漫画などを書いており、そちらも人気があった。
そんな彼女がVTuber事務所を作るということもあり、当時は個人勢をはじめとするVTuber界隈で大分盛り上がった。そして2期生がデビューしてしばらく。つぼみに背負われて登録者を伸ばしているという初めの方の厳しい評判も、彼女たちの実力によって吹き飛ばしていった。気がつけば銀盾が並び、多くの切り抜きが上がるようになった。
事務所にはいろいろな種類があって、ゲームを前面に押し出したり、アイドル系でキラキラと活動したり、逆に他の事務所がしないような過激なことをしたり、タレントの数の多さを生かして活動したりと、それぞれ自分たちの強みを生かしながら活動している。
そんな中、SunLive.は“混沌”と言われる事務所だ。なぜなら、アイドル系でキラキラと活動するような人もいれば、他の人がマネ出来ないような過激なことをする人もいる。人数は少ないながらも、あらゆる需要を満たしている事務所だからだ。
事務所のスタンスとしては『面白ければいい』というものであり、何か運営側からストップをかけることは基本ない。そう言った自由でリスナーとの距離が近いような点がSunLive.の強みだ。
また、SunLive.は自己生産が可能であるという点も強みだ。まず、桜木つぼみが自身や茶葉のデザインをやっていたり、イラストレーターであったという経歴からもわかるように、イラストを社内生産出来るのだ。それはグッズがVTuber本人のイラストで出せるという、他ではあまりできないようなことができるということであり、他にも外部とのコミュニケーションを取らなくても良いため、よりスムーズに、細かく連絡を取り合って作品を作れる。
音楽関連に関しては茶葉、つまり私ができる。今回の玲音ちゃんの件もあるが、他にも配信用のBGMを制作したりと言ったことをしてきた。
そして、ITという観点で見ると鬼灯朱里が可能だ。他にも社内にも人はいるが、鬼灯朱里はそのどの人材よりも優秀だ。元々国内トップクラスの大企業に勤めていて、海外の工科大出身ということからも分かるように理系に強い。また、英語もペラペラであり、普段の配信からはまったく分からないほどに有能だ。
さらに、SunLive.は他の事務所ではあまりないような事業展開を行っている。それは個人勢VTuberへのサポート事業だ。
元々個人勢であったつぼみが作ったということもあり、個人勢が欲しているサポートを受けられるというサービスは非常に画期的なものであった。今ではトップ個人勢の多くがSunLive.のサポートを受けており、そのお陰もあって社内タレントとサポートタレントのコラボ配信ができたりと、より精力的に活動出来るようになっている。
このように、SunLive.はSunLive.で他の企業にはないような強みを生かしながら国内トップクラスのVTuber事務所へと成長しているわけだ。
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