第133話 茶葉×玲音 雑談オフコラボ①
玲音「……開き直ります?」
茶葉「じゃあ、今日は何者かに操られちゃって厨二病が抜けちゃったっていうことで行こうか」
玲音「そうですね! でしたら、本日はそういう方向性で行きましょうか」
コメント
:草
:それを配信に流したら意味ないのよwww
:アイデンティティの崩壊
:ww
:なぜwww
:【桜木つぼみ】なんか知らん間に事故ってて草
:開き直るのかw
:遅ぇ
玲音「よし! なら早速そうめんを頂いちゃいましょう!」
茶葉「そうだね!」
玲音「じゃあ流しちゃいますよ~、そ~れ!」
明らかに感覚が麻痺したようなおかしなテンションである。ぐるぐる目の玲音ちゃんは、ニコニコと笑いながらどんどんと水の中にそうめんを入れていく。
玲音「先輩! 掬ってください」
そうめんを掬う、玲音ちゃんを救う、どちらの意味にも取れるようなことを言うが、今は気にせずそうめんを掬うことにする。
くるくると回っているそうめんに向けて箸を入れると、そうめんをすっとすくい上げた。
茶葉「おお」
玲音「先輩! 上手です!」
……、ちょっと待ってくれ。
茶葉「玲音ちゃん、落ち着こうか」
玲音「何言ってるんですか? 私はいつもこうですよ?」
茶葉「ごめんリスナー、ちょいタンマ」
コメント
:面接官ストップ入ってて草
茶葉「誰が面接官じゃ!」
玲音ちゃんの様子が明らかにおかしいので、一度配信をミュートにする。今回はしっかりとミュートができているみたいだ。
ミュートができていることを確認したら、そのまま玲音ちゃんのマネージャーである曵埜さんに電話をかける。
あちらはあちらで待機していたみたいで、すぐに電話に出てくれた。
「あ、お疲れ様です」
曵埜さんの第一声はこれだ。どうやらこの中で最も落ち着いているのは曵埜さんらしい。
玲音ちゃんは曵埜さんの声を聞くと、目をうるうるとさせて私に寄りかかってきた。どうやら結構限界らしい。
「えっと、配信見て貰っているとおりなんだけど……」
「はい。ついに剥がれましたね。まあ個人的にはいつか剥がれると思っていたのでいいのですが……。やはりこのお嬢様に厨二病キャラは厳しいものがあるとは前々から思っていたんですよ」
そういうと、玲音ちゃんはさらに追い打ちをかけられたようで、ぽろぽろと涙を流し出した。
「まあ起きてしまったことは仕方がないですし、これはこれとしてやっていくしかありませんね。今から厨二キャラって言うのもメンタル的に厳しいでしょうから、ひとまずこの配信以降の対処は配信後に考えるという方向性で」
「了解。玲音ちゃんもこれで大丈夫?」
「……はい」
「もう、大丈夫だから、そんな泣くなよぉ」
ひとまずこの配信は清楚モード、吹っ切れモードでいこうということになったのだが、玲音ちゃんのメンタルがやばそうだ。
玲音ちゃんはなんやかんやでデビューしてから1回もやらかさなかったのだ。他の人は何かしらで配信ミスをしたり、朱里に至っては収益化剥奪されたりといろいろあったけど、彼女は根が真面目なのでそういったことが一切なかった。
今回コラボになって少し気が緩んでいたという所はあるだろうし、マイクテストをしたのは私なので私の責任も多い。
「えっと、後はこちらでなんとかしますので、曵埜さんは業務に復帰してください」
「了解です。何かありましたらまたご連絡ください」
「はい」
ひとまず通話を切って、玲音ちゃんに向き合うことにする。
あまり長い時間ミュートにしているとリスナーが心配しちゃうので、なるだけ早めに復帰したいのだが……。
「大丈夫だから、そんな心配することじゃないよ」
「……でも」
「そんなことで離れるほど、リスナー達は冷たい人たち?」
「……それは違います」
「そうでしょ。ちょっといつもと違うだけで離れてしまうような薄情なリスナーばかりではないよ。みんな玲音ちゃんという1人の人間が好きで応援しているわけだから」
「……」
香織だって初めは清楚で売っていたが、だんだんと剥がれてきて今となっては面白コメディアンだ。
でも初めから付いてきてくれている人はいる。今も応援してくれている人はいるわけだ。
ただミュートが外れてしまっただけ。しばらくすればこれは切り抜きになり、より知名度が上がって強固なファン層が出来上がる。
1人の人間として、VTuberとして成長していくためには必要なスパイスなわけ。
1人の高校生が背負うにはなかなかハードなやらかしのひとつかもしれないが……、身バレをしてしまったとか、そういう大きな話ではない。
「ほら、そうめんお食べ」
どういうと、取ったっきりつゆにつけっぱにしていたそうめんを玲音ちゃんの口に運び込む。
玲音ちゃんはそれをパクリと食べて、もぐもぐとしている。
「過ぎてしまったことはしゃあないよ。私だって酔っ払って失言したことあるしさ、やっぱりこうやって活動していく以上こういうことはたくさんあるよ。確かにいろいろ思うことはあるかもしれないけど、今は目の前のリスナーを楽しませることに全力を注がなきゃ」
「はい……」
「それにね、もう大分メッキ剥がれてたんだよ。だってリスナー面白がってたでしょ? ショック受けてた人はいなかったわけだ。つまりそういうこと」
私がそう言うと、玲音ちゃんはまた黙り込んでしまった。
しかし、しばらくしてすこし肩がふるふると揺れ出した。
「先輩励ますの下手すぎる……」
ぷぷぷと笑いをこらえながら玲音ちゃんがそう言ってくる。まだ目に涙は浮かんでいるものの、ナーバスな気持ちは多少薄れたらしい。
「……あのね? 私も必死だったんだから……」
「そうですね。確かに今こうやって私たちが帰ってくるのを待ってくれている人もいるわけですし、ここでミュートしっぱなしっていうのも不誠実ですよね」
そういうと、玲音ちゃんは涙を拭い、頬をパチンと叩いて小さく握りこぶしを作った。
「よしっ、もう大丈夫です。開き直りました!」
「よしおっけい。ひとまずこの配信乗り切ろう」
「はい!」
まだいつもほどの元気はないが、目にハイライトが戻った。これでもう大丈夫だ。
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