第132話 直前準備
「そうめん茹で上がりましたよ~」
「おけ~」
配信時間が近づいてきて、着々と準備が進められている。
玲音ちゃんはそうめんをゆで、ざるに上げて氷水で締めている。かるくの方が良いのかもしれないが、配信中にどのくらいのペースで食べるかが分からないために一応しっかり冷やしておいた。
その上から氷をのせて、時間になったら冷房の効いた玲音ちゃんの部屋へと運び込む。
それまではラップをかけて冷蔵庫に入れておく。
部屋の中央には先ほども使った机があって、その前にカメラ用のスマートフォンが2台設置されている。それぞれ玲音ちゃん用、私用だ。
流しそうめんの機械の音が響かないよう、アームで高めの所にマイクが設置されている。
「マイクテストするね」
「あ、一応そうめんの機械入れますね」
「了解」
そうめんの機械に水を入れ、回り出したことが確認してからマイクのテストを始める。
ゴゴゴゴゴゴゴッ――
「あ、ダメだこれ」
地響きのような音が聞こえてくる。どうやらアームがあっても振動で音が入ってしまうらしかった。水の音は入っていなかったので、高さはこれで問題がないらしい。
「あー、じゃあカラーボックスにつなげましょう」
「おっけ~」
そう言うと、玲音ちゃんは部屋の隅っこに置いてあった白いカラーボックスを取ってきて、そこにモニターアームを固定した。
再度テストしてみれば、ノイズは入っていない。
コメントは私のノートパソコンで確認。配信の枠も既に取ってある。配信の設定もしっかりできていて、映像音声共に問題はなし。
「割とギリギリになっちゃいましたね」
「……え?」
あらかた準備を終え、時間を確認してみればまだ10分ほど開始まで時間に余裕があった。
思ったより早く準備が終わっちゃったなぁと思っていたのだが、玲音ちゃんにとってはこの10分というのは割とギリギリらしい。
「……ギリギリ?」
「え? ギリギリじゃないですか」
「う~ん……、そうだね……」
確かに私も香織も配信始めたての頃は15分前には準備を終わらせていたかもしれない。
ただ、今となっては時間ぴったりに配信を始めて、2分程度の待機画面表示中にササッと準備をしてしまう。
なるほど、これがジェネレーションギャップという奴か。(違う)
「じゃあ、待機画面つけますね」
「おけおけ~」
待機画面とは、配信自体は始まってはいるもののまだ私たちが出ていない状態のものだ。 簡単なアニメーションが流れていて、そのアニメーションが終わったら始まるといった感じだ。いわばオープニングのようなもの。
SunLive.では通常は大体2分取るのが良いとされている。
ちなみに、取らないでいきなり始めると、大体のリスナーは配信の途中、1分くらい遅れてきたりとかそういうことがあるので、できるだけ取るようにしている。
待機していても多少遅れたりとかもあるので。
通常のソロ配信だと大体2分だが、公式配信では5分取ったり、コラボだと2分より少し長く取ったりと、配信の大きさによって変化したりする。
今回は3分くらいにすると言っていた。
「つけました。いや、ちょっと緊張しますね……」
先ほどまでの玲音ちゃんとは違い、少し緊張しているような様子だ。オフコラボをあまりしないと言っていたし、緊張するのも頷ける。
「あ、そういえばそうめん持ってきてないや」
「あ! 私取ってきますよ!」
「いやいや、つゆとかもあるから一緒に行こ」
「あ、そうですね」
そうめんは2人前ゆでてある。そのそうめんの他にもめんつゆや、ネギやショウガと言った薬味などもしっかりと用意してある。
それらを持ってくるとなると1人ではなかなか厳しいのだ。
ちなみに、めんつゆはまだお皿に入れていないので、上で入れるといった感じだ。
冷蔵庫の中からそれらを取りだし、お皿も取り出して玲音ちゃんの部屋へと運んでいく。
「これって何倍?」
「あ、もう薄まってる奴なのでそのままで」
「おっけ~」
めんつゆを注いで、箸置きにお箸をのせてしっかりと整えて準備完了。
「玲音ちゃんそろそろモード入れた方が良いんじゃないの?」
そういうと、玲音ちゃんは嫌そうな声でうなり声を上げだした。
耳が少し赤くなっていて、恥ずかしいのだろうということが分かる。
「もう……、私厨二キャラ嫌なんですけど」
「え~? 面接の時玲音ちゃんが言ってたんだよ? 漆黒の炎が何ちゃらかんちゃら――」
「えぇぇええ?! なんでまだ覚えてるんですか?!」
「覚えてるよ。だって強烈だったもん」
玲音ちゃんは面接の時にめちゃくちゃ厨二病を振りまいてやってきたのだ。配信を始めてリスナーにイタいと言われるまでかっこいいと思っていたらしい。今となっては黒歴史だそうだが、こういうスタイルで始めてしまったので、辞めるタイミングをつかめないでいる。
「まあ、もう大分剥がれてると思うよ?」
「いやいや、まだ大丈夫です……」
「もったいないよ。清楚路線で行けば良いのに」
「はぁ……、私もそうしたいです……」
そう本気でしょんぼりとしている。
「懐かしいなぁ……。面接で来た小さい子が今では配信者よ……」
「私面接室に入ったとき驚きましたよ?」
「え? なんで」
「いや、なんか私と同い年か年下くらいの人が面接官やっていたんですもん」
「はぁ?! 失礼なんだが!」
まさかあのときからなかなか鱗片は感じていたが、まさかここまで人気になるとは思っていなかった。社長が面白いと言わなければ落ちていた可能性まであったわけだからね。
正直めちゃくちゃイタかった。古傷がえぐられてすごく嫌だったんだよね……。
「あ、そろそろ時間になりましたので、待機明かしますね」
「あ、私やるから玲音ちゃんモード入れときなよ」
「……はい」
よっこいしょと立ち上がり、パソコンの前へと行く。
そして配信管理画面に映っていたのは……。
「やべ」
「え?」
「ミュート出来てなかったわ」
「――ッ?!」
コメント
:裏話wwww
:清楚で草
:はい、完全に剥がれた
:wwwww
:やっぱり清楚で草
:面接担当茶葉ちゃん?!
:意外な接点
:面接中の玲音ちゃん知りたすぎるwww
:やっちゃいましたね
:やっぱり演技だったんじゃないか!
:イタいとは思っていたが、本人もイタいと思ってたんだww
:かわいいw
:ワイも茶葉ちゃんに圧迫面接されたい……
:↑キモ
:裏話最高
:めんつゆのくだりリアリティーあって好き
:仮面外れたね
「うわぁぁぁ……」
「どどど、ど、どうしましょう!」
そう言いながらあわあわと震える玲音ちゃん。そう、彼女の売りであった厨二病が演技であったとバレてしまったのだ。
別にそんな心配することでもないと思うのだが、本人からすると相当ショックな出来事らしい。
いつから付いていたのだろう。コメント的に待機画面をつけてからずっとだろう。
先ほどマイクチェックしたから、そのときにミュートが外れてしまっていたのだろうな。
まあ、もう過ぎてしまったことは仕方がないのだ。
「う~ん、開き直ってみる?」
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