第130話
「雰囲気としてはやっぱりかっこいいより?」
「かなぁと思ったんですけど、可愛いよりも良いなって……」
「確かに確かに。玲音ちゃんの当初の設定だと厨二キャラだったけど、そのガワは大分剥がれてきているみたいだし」
そういうと、玲音ちゃんはうぐっといったような声を出した。初めはなんとか持ちこたえていた厨二キャラも、結局今となっては剥がれている。なんて言ったって彼女はお嬢様なのだ。育ちが良いのが透けてしまう。
一応作曲アプリを開いている私のパソコンをじっとのぞき込む玲音ちゃん。普段は編み込んでいることの多い髪の毛をストンと下げている。
いろいろと全身じろじろ見てみると、彼女もちゃんと高校生なんだなと思う。
彼女が女子校に通っていて良かったと思わせるほどだ。共学に通っていればそれはもうモテモテである。今もモテていそうだが。
「えっと……」
「ああ、ごめんごめん。そうだね。わざわざここに来てかっこいい系を出す必要はないかもしれないね。ならばここで思いっきりふわふわな可愛い系を出すのはありだと思う」
「先輩はどっちも出してましたよね」
「そうだね。どっちかっていうと可愛い系の方が得意かなぁ。伸びたのはかっこいい系だったけど……」
私が本格的にVTuberとして(まだ裏方としての仕事がメインだと思っているけど!)活動する前、まだSunLive.を立ち上げる前はネットで音楽を作っていたわけだ。
そのときに伸びていたのはかっこいい系だった。ぎゅいーんみたいな。
私としては可愛い系の方が好きだ。かっこいい系の曲は作曲は良いのだが、作詞していて頭を悩ませてしまうことがある。可愛い系のリズムだと、作詞のテーマはかっこよくても、気持ちが悪くても、可愛い系でも、案外ギャップでなんとかなったり、全体的なまとまりを作りやすいような気がするのだ。
個人の考えだが。
そういった意味でも、私は可愛い系の方が得意だ。
「玲音ちゃんはキャラの見た目も可愛い系だし、時々崩れる口調が癖だよね。うん、可愛い系で行こう」
「はい」
「でなんだけど、バックのサウンドをどういう風にしたい?」
「えっと」
そういうと、玲音ちゃんは何言っているんだろう見たいな目で私を見てきた。説明が足りなかった。
「うんとね、例えば後ろで流れているリズムとか、音楽っていうのを電子系で作るか、バンドみたいにギターとかドラムとか、そういう系で行くか。どっちがいいかなって」
「そうですね……。個人的にはギターとかドラムとか、ベースとかそう言ったものの方が好きです。ただ、VTuberぽいと言われると正直電子系じゃないですか……?」
「それはそうだね。ピコピコしていた方がVTuberぽいとは思う。ただ別にピコピコしてなくたって良いんだよ。オリジナル曲を出すときに関しては、VTuberではなくて1人の歌い手、歌手としてやっても良いと思う。だからそういうのにはこだわらなくていいよ」
あれから密に意見交換を重ね、時刻が6時を回ったところで一度休憩をすることにした。
これから配信まではしばらく休憩だ。あと2時間。それの準備とかを考えると、1時間半くらいは休憩出来るかなと行った所だ。
「どうする? この間にお風呂とか入っちゃう?」
「そうですね。でしたらお先に入ってください」
「いやいや、先に入ってて。私はさっきの話し合いのまとめを軽くしたいから、それを先にやりたいんだ」
「そ、そうですか? でしたらお先に失礼します」
配信の前にお風呂に入ろうということで、順番は玲音ちゃんが先。
玲音ちゃんはクローゼットから自身のパジャマとかその他諸々を持って、「ではでは~」といいながら部屋を出て行った。
しばらくして、てとてとと階段を下っていく音が聞こえてきた。
「よしっ」
それを確認すると、開いていたノートパソコンをバタリと閉じ、私のバックの中から着替えを取り出した。スマートフォンにモバイルバッテリーをセットし、準備は万端である。
そう、VTuberたるもの、話題作りに一肌脱ごうと言うわけだ。
このあとの雑談配信、オフコラボということでリスナーはてぇてぇを望んでいるのだ。と言うことは、その需要を満たすのが配信者としての
そして、その様子を録音するのだ。
「それ、浮気じゃないの?」
そう香織に言われるのではないかと懸念する方々もいるだろう。これっぽっちも問題はない。
香織は生粋のエンターテイナー。面白さのためであれば地面を這いつくばるまで頭を下げられるエリートウーマンなのだ。こんなことでグチグチと言ってくるような狭い器の持ち主ではない。
彼女だって私ならこうするだろうという考えで私を送り出しているはずだ。事務所を出るときに「しゃあっ! 一発かましてこい!」と言われたし、そういうことなのだ。
ああ、サムズアップしている香織が目に浮かぶ。
玲音ちゃんがシャワーを浴びるタイミングを見計らい、私はお風呂場へと突入する!!
そして私はこう言うのだ。
「お背中、流しましょうか?」
――くぅぅっ! いいねいいね!
さぁ、早速向かおうではないか!
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