第129話
「お待たせしました~」
そういうと、玲音ちゃんが飲み物とお菓子を持ってやってきた。
玲音ちゃんの手に握られていたのは、居酒屋などでよく見る瓶に入ったオレンジジュースだ。既に栓が抜かれている。
「あ、良かった……」
「?? なにがですか」
「いやいや、こっちの話」
さすがにポテトチップスは一般的なものだった。もしこれでトリュフをふんだんに使った高級ポテトチップスが出てきたりでもしたら、わたしはナイフとフォークの使い方を勉強し直さねばならぬところであった。
ちいさくよいしょといい、部屋の隅っこにたたんであった小さな机を出すと、クローゼットの中からふわふわの座布団を取り出し、それぞれ対面に並べた。
促されるようにそこに座り、わざわざコップに注がれた瓶ジュースに軽く口をつけた。
「じゃあどうする? 配信の話からするか、それともオリ曲の話をする?」
「えっと、盛り上がってしまいそうなのでまずは配信からで」
「了解」
そういうと、私は持ってきたバックの中からノートパソコンを取りだし、広げる。
玲音ちゃんが座布団を持って私の横にやってきたので、2人でノートパソコンをのぞき込む形になった。
玲音ちゃんからは上品な石鹸の香りが漂ってくる。お嬢様だ。
ちなみに、玲音ちゃんのマネージャーや玲音ちゃんから以前より相談を受けていたものは、玲音ちゃんのオリジナル楽曲の話である。
歌ってみたなどは多く出してきたが、SunLive.全体で見てもオリジナルの曲をリリースしたのは数少ない。今回玲音ちゃんがオリジナル曲を作りたいという話がSunLive.の社内に上がり、作詞作曲を誰に依頼するかという話になった際に、私の名前が挙がったわけであった。
ひとまずはこの後の配信の話が先だ。
「メインはどうする予定?」
「そうですね。一応流しそうめんでも食べながら雑談をしようかと……」
「流しそうめん?」
「はい。機械を買いましたので」
そういうと、玲音ちゃんは部屋の隅っこの段ボールの中から大きめの流しそうめん機を取り出した。ずっとくるくる流れるプールのように回っていくタイプだ。
「えっと、これ配信に映る……?」
「……映らないですね」
きっと流しそうめんが楽しみであったのだろう。満面の笑みであった玲音ちゃんの表情が一気に焦りに変わった。
「いやいやいや、大丈夫だから! じゃあそうめん食べながら雑談配信にしよう!!」
「は、はい……」
「そうそう、配信枠はもう取ってある?」
「取ってます」
そういうと、スマホで自身のチャンネルページを表示し、見せてくれた。
『【雑談オフコラボ】夏だし、流しそうめんでも食うか?【SunLive./柊玲音・茶葉】』
「……」
めっちゃ流しそうめん楽しみにしてる……!!
サムネイルがいつもよりも凝っていて、私が豪快に箸でキャッチした流しそうめんを、玲音ちゃんが横取りしているイラストであった。
「えっと、良いサムネだね」
「はい。曳埜さんにご協力頂きまして」
「あ、そうだったんだ。じゃあ配信気合い入れないとね!」
「はい」
配信のお話はこれでおしまい。どうせ雑談だからどうとでもなるのだ。
ここからは玲音ちゃんのオリ曲の話。
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