第126話
まだ真夏と言うには少し早いが、昼間には汗をかくほど気温が上がる今日この頃。このまだ早朝にもなっていないような時間帯の海辺は、そんな気温を忘れるほどに涼しく心地が良かった。少し寒いくらいだ。
水平線へ目をやると、ポツポツと漁船の明かりが見え、波の音を聞きながら空を見上げると、そこには一面星空が広がっていた。
「おお、あれがデネブにアルタイル、あとベガか~!」
香織がそう言いながら夏の大三角を指さす。どうやらアニソンで覚えたらしい。
「おーい、そろそろいいかい?」
凪ちゃんのその合図で頭に装着したヘルメット型の懐中電灯を灯す。先ほどまでは僅かな月の明かりでのみ照らされていた堤防が、3つの光によって一気に明るく灯る。
凪ちゃんの手引きによってかごにコマセを詰めると、そのままゆっくりと堤防の下の方へと落としていった。
釣り開始である。
三脚で固定されたカメラの画角に収まるように設置された、折りたたみ式の小さな椅子に腰をかけ、ただひたすらに竿が反応するのを待つ。
初心者である私は比較的難易度の低いサビキ釣りに挑戦している。同じく初心者の香織は餌釣りをしている。
そんな私たちの横では先ほどからルアーフィッシングをしている凪ちゃんの姿があった。
配置としては、私の右に香織で左に凪ちゃんといった配置だ。
「凪ちゃんってどんな釣り道具を持ってきたの?」
「そうだね、正直あまり持ってこられてはないね。今ある他だとブラクリとかあるよ」
どうやら島の方にはもっとたくさんの釣り道具があるそうなのだが、今回はあまり量を持ってきていないらしい。
「つぼみどう?」
「うーん、わかんないね!」
凪ちゃん曰くここから魚が活発になるそうで、まだあまり掛からないんだそう。
「ん? なんか掛かってるかも~?」
つれないなぁとか言いながら香織がくるくると巻いていると、何やら重みを感じたらしい。竿の先端が少し動いているのが見える。
「あー、掛かってるかもね」
「きたきた!」
凪ちゃん曰くおそらく掛かっているそう。
そこそこ重いらしく、必死になって引き上げている。
凪ちゃんはタモを取り出し、待機している。
「手前まで寄せてね。上に上げても良いけど掬った方が楽だよね」
「ありがと~!」
そうして上がってきた魚。
「あれ? これあかんのでは……」
「ショウサイだね。一応私免許あるから食べられないことはないけど、ちょっと自宅以外では調理したくないかなぁ~。ってことでリリースで」
「えー!! せっかく釣ったのに!」
「ていうか凪ちゃん免許持ってんだ」
「そだよ~」
本日の釣り台一号はショウサイフグであった。凪ちゃんはふぐの調理師免許を持っているらしいのだが、毒があるのを慣れない場所では捌きたくないし、いろいろマズそうだから止めておくことにしたらしい。
香織が残念そうにしながらリリースしていた。
「あ! 私も掛かったかも!!」
今度は私の元に魚がやってきた。
びびっとする感覚、少しドキドキする。
「いいねいいね。くるくる巻いて~」
そうして上がってきた魚。
「えっと、これは多分サッパ? かな。うちの方ではあんまり取れないから……」
どうやら釣り上げた魚はサッパらしい。比較的おいしいそうだ。
「じゃあこの調子で釣ってこう!」
凪ちゃんの時間設定が良かったのか、あれから相当な入れ食いだった。本当はもう少し長く釣りをしている予定だったのだが、想像よりもたくさん釣れたため早々に切り上げてしまった。
すべて車の中に持ち込み、ひとまずえらと内臓を外してしまう。
えらと内臓を外した奴をいくつかまとめてファスナー付きの袋に入れ、塩を振った氷の入ったクーラーボックスの中に入れていく。
そんな魚たちの中からよさげな者を引っこ抜いて、これからご飯を作っていく。
「ご飯って言っても塩焼きなんだけどね~」
本当は外に出て焚き火をたいてとかやりたいのだが、前日雨が降っていて湿っているということや、撮影をするなどの関係上車の中でフライパンで焼くことになる。
魚焼きグリルは掃除がめんどくさいので使わない。
「ササッと調理をして帰ろっか! いやー、まさかこっちでも釣りができるとは!」
たくさん釣れたためか、凪ちゃんは満足げである。
「楽しかった!」
香織も結構魚が釣れて満足そうだ。もちろん私も大満足。
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