第124話

 2時間ほど揺られて午後9時頃、凪ちゃんの案内によってキャンピングカーは所定の位置まで移動し、これにて車での移動は完全に終了となった。


「ではここからの行程をご案内いたします!!」

「いえ~い!」


 そうしてキャンピングカーのソファーに全員が集合し、凪ちゃんの説明を受ける。

 私と香織は2人で横並びにソファーに座り、凪ちゃんは対面のソファーに座って腕を組んでいる。


 翌日起床は午前2時半。そこから準備を始めて午前3時頃からつり始める。とりあえず今からは軽く夕食を食べた後に睡眠。4時間ほど寝る計算だ。

 夕食はレトルトを温めて食べる。どうやら凪ちゃんがカレーを詰めているらしいので、それを食べる感じだ。

 翌朝は釣りをしながら軽く買っておいたおにぎりを食べ、しっかりとした朝食はつれた魚を調理して取るということだった。

 どうやらこのキャンプ場には調理出来る場所があるらしいが、撮影の都合上すべてキャンピングカー内で行う。掃除が大変そうだが仕方がない。


 ただ幸いなことに、今日明日と平日で、今日が雨だったこともあってこのキャンプ場はまさかのほぼ貸し切り状態。

 釣りに関しての撮影は大丈夫そうだ。厳しかったら映像の撮影はしないで声だけでと言うのもあるし、とりあえず撮影はしておいて後からアニメーションをつけるということも可能だ。

 なのでそこまで気にしなくても大丈夫そう。


「じゃあそういうことだから、ちゃちゃっとご飯食べちゃおっか!」


 説明を終え、みんなおなかがすいたのでご飯を食べることにした。


 そのタイミングで私もカメラを取り出して、みんなに問いかける。


「もうカメラ回す?」


 せっかく3人でご飯を食べるわけで、明日もカメラを回すのだからこの時間から既に回し始めても良いと思ったわけだった。

 私たちと凪ちゃんは裏では結構話しているのだが、活動休止していたということもあってリスナーのみんなはまだどれくらい仲が良いのかなどはあまりわかっていないみたいだ。

 なのでこういう日常会話的な場面もしっかりとって、仲良しを見せつけたい。


「いいねいいね! 回しちゃお~!」


 香織も凪ちゃんも賛成ということで、撮影用のカメラが早速回り出した。






「え? これ挨拶とかいる?」

「いらないんじゃない?」

「え?! 挨拶必須挨拶必須!」

「ぐだぐだだなぁ……」


 カメラが回り始めてすぐ、挨拶いらない派の香織と挨拶必要派の凪ちゃんで割れて、結局挨拶をすることになった。

 いきなりのぐだぐだで正直少し不安を覚えたが、これが私たちクオリティーである。


 テンプレ挨拶を軽くこなして、私がお湯を沸かしている間に凪ちゃんが今の状況を視聴者向けに説明している。


「今日は3人で釣りキャンプに来たよ~!」


 そう言ってこの部屋全体を映している。香織がにっこにこの笑顔でカメラに向かってピースをしているが、おそらくその笑顔は視聴者には伝わらないと思う。


「茶葉先輩今何作ってるんですか!」

「え、カレーだけど」

「え~?! 茶葉ちゃんカレー作れるの?!」

「舐めるな! ていうかこれレトルトだからな」

「え~? 見ればわかるよ~!」

「ふざけんな(怒」


 軽いジャブの打ち合いをしながら沸いたお湯の中にレトルトカレーを入れて温めていく。同時に白米を電子レンジでチンしてお皿の準備をしておく。

 配信ならば光の反射などを気にしなくてはならないのだが、どうせ編集が入るということでそこまで気にしない。手際よく作業していく。

 お皿は紙皿。スプーンは事務所から持ってきた。


 私が食材を温めている間、凪ちゃんは香織と私の後方で私の調理風景に実況をつけている。触れたら負けだと思って触れないでおいた。







「うん、安定のおいしさ」

「レトルトだもん」


 出来上がったカレーはもちろんしっかりとおいしかった。

 だがそれはそのはずで、ただ暖めるだけなのだ。私たちが凄いからおいしくなったのではなく、企業努力である。


「茶葉ちゃんが作ったカレーの方がおいしい……」

「そう? じゃあ今度作るね」


 そう言うと、香織が私のことをもにゅもにゅと揉み始める。


「こらこらこら、そこイチャつかない!」

「ああ、ごめんごめん~」


 凪ちゃんに怒られてしゅんとしながら香織はひたすらにカレーを頬張り始めた。

 席配置は先ほどの行程説明の時と同様に私と香織が横並びで、凪ちゃんが対面だ。これはこのまま固定になりそう。


「ベッドいくつかあるけど、どういう寝方にする?」

「てけとうでいいんじゃない?」

「はいは~い! 私茶葉ちゃんのお隣!」

「え? お隣とか言う概念なくない?」


 食事を取りながらこの後の話し合いをする。この間もカメラは回っているので、普段の呼び方ではなく配信向けの呼び方をしている。


 このキャンピングカーは屋根上に2つ、下に二段ベッド形式で2つと言った形の配置になっていて、隣が存在しない。あると言えばあるが、はしごを挟んでいる。


「え? 隣だよ?」

「ん?」

「えっと、つぼみ先輩は茶葉先輩と同じベッドで寝る気……?」

「だからそう言って――」

「却下で」

「え~!! なんでそんな即答な!」

「明日朝早いんだから寝させてくれ……」


 どうやら香織は私と同じベッドで寝たかったらしい。そういえばここ数日仮眠室で寝ていたので一緒に寝られていなかった。ただ、さすがに狭くて寝苦しいだろうということで断ることにした。


「じゃあ適当でいいや……」


 早い者勝ちということで、適当な配置で寝ることになった。






 食事を終えてカメラを止め、寝る支度をしている。


「どうする? 何か遊んだりとかする?」

「しないよ。明日朝早いって何度も言ってるじゃん」

「そうだった!」

「かおりん朝強い?」

「そこそこ?」

「うそこけ」


  

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