第123話 到着

「で、何を釣りに行く予定?」

「決めてないかな~。とりあえず五目釣りで」

「五目釣りってなに~?」


 釣りに向かっていることがわかったので、何を狙っているのか聞いたところどうやら今回は五目釣りをしに行くらしい。

 私も何だかわかっていなかったので、それを香織が聞いてくれたのがありがたい。

 凪ちゃんは自分の趣味、と言うか仕事に少しでも興味を持ってくれたのがうれしいのか、ニコニコで香織の質問に答えだした。


「五目釣りっていうのはこれっていう魚を狙わないでいろいろな種類の魚を釣ろうっていう奴。よく五目チャーハンってあるじゃん?」

「あるある! あー、それの五目か!」

「そうそう、いろいろみたいなそんな感じだよ」

「理解!」


 この時期何が釣れるのかなどは調べてこなかったらしく、サビキだったりルアーだったりといろいろな種類の釣り道具を持ってきているらしい。

 ちなみに、私は釣り初心者なので何を言っているのかこれっぽっちもわからない。

 ひとまず有識者に付いていけばなんとかなるはずである。


「目的地まではどれくらい?」

「あと2時間くらい~」

「釣り場が併設されてるキャンプ場に行くよ! 予約とかはとってあるから!」

「なるほどなるほど、じゃあそこで夜を明かして早朝からって感じか」

「そうだね。大体3時くらいからつり始めようかな」

「3時?! 早くない?」


 てっきり早朝からだから5時位を想定していたのだが、凪ちゃん曰く3時にはつり始めたいそうなのだ。

 だから少し仮眠をとってすぐ準備に取りかかる。


 太陽が昇る前は魚が寝ぼけてたりするから仕掛けに掛かりやすいとか言っていた。

 魚も生き物だから寝ぼけるそうだ。そりゃそうだね。


「凪ちゃ~ん」

「なにかおりん」

「これってカメラ回したりする~? 一応オフィスからいろいろカメラパクってきたんだけど~」

「でも実写だと動画にしにくくない?」

「あー、それに関しては映像班が加工してくれるから、投稿出来ないことはないんだよね……」


 香織は手持ちや固定、体につけるタイプなどいろいろなタイプのカメラを持ってきているらしい。せっかくみんなで釣りに行くんだから撮影出来たら良いよねと思ったそうだ。さすがは長年配信者をやっているだけはある。

 他のメンバーはマネージャーに確認をとったりとかそう言ったのがあるので、突然やろうとか言われても結構困ってしまったりする。先に撮影しておいて後から許可を取るでもいいけど、それだと万が一許可が出なかった場合とかは撮影データが無駄になる。

 まあ大抵は許可が出るけど。

 ただ、今この場にいる所属タレントは3人で、3人とも今この場にマネージャーがいるのだ。

 私のマネは香織で、香織と凪ちゃんのマネは私。ということは許可を取る必要がない。


「じゃあ撮影しちゃおっか!」

「おけ。じゃあ編集班への手回しとかは私がやっておくから」

「さすが最高執行責任者! 頼りになる!」

「まかせなさい。伊達に長く裏方やってないよ」








 それからしばらく高速を進み、下道に降りて20分ほど行ったところで車が止まった。


「よし、着いたよ」

「運転ありがと! じゃあ管理人さんとこ行ってくるからまってて!」


 そういうと、凪ちゃんは傘を持って走ってキャンプ場の管理棟まで向かった。


「運転お疲れ」

「疲れた~!」

「お疲れお疲れ、ほらこっちおいでよ」

「あーい」


 そう言うと香織はにゅるりと運転席から抜け出して、私の隣に座った。

 そうして私のわきの下に手を突っ込むと、そのまま私を持ち上げて膝の上にのせた。


「う~ん、良い香り……」

「え、キモ」

「同じシャンプーなのに匂いが全然違うね~」

「え? そう?」


 その言葉が気になったので、私も香織の匂いを嗅いでみる。


すんすん――


「ん~……、わからん」

「そお? まあ私も適当だったけどね」

「なんだよそれ。ほら、サイトに移動するんだからそろそろ運転席戻って」

「はーい」


 そういうと、私を抱きしめていた香織の手が離れていったので、香織の膝の上から降りる。そうして香織はまた運転席へと戻っていった。


 それから数秒後、キャンピングカーの扉が開いて凪ちゃんが香織に声をかけた。


「私が案内するから、ゆっくり付いてきて! 轢かないでね!」

「轢かないよ!!」  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る