第121話
「あ、おはようございます」
「おお、凪ちゃんおはよう」
検品を終え、机の上にグッズを並べて写真を撮っていたところ、そこに凪ちゃんが起きてきた。
凪ちゃんは東京にいる間は基本的に仮眠室に寝泊まりしている。香織はまだ寝ているみたいだ。
「これは! グッズ!」
「そそ。凪ちゃんのもあるからね~」
「あ、先輩、私は用事あるので後は任せます」
「おっけ~」
マネージャーの業務を私の代わりに取り仕切っている西原さんは、基本的にいつも忙しい。雑談したときに聞いたのが残業時間の多さだ。私が一人で回していたときに比べれば全然良くなっているが、それでも残業が多いのは事実。
個人勢のサポート事業が想像以上に軌道に乗ってしまい、今はそっちの方が忙しかったりするらしい。
「さっきの方は?」
「ああ、西原さん。本社でマネジメントを統括している人で、律ちゃんのマネージャーだよ」
「へー、汐ちゃんがマネジメントの統括だと思ってたかも」
凪ちゃんは自分のアクリルキーホルダーを手に取って隅々までチェックしながらそういう。
「ああ、私は業務執行責任者だから、西原さんの直属上司かな」
「お偉いさんだね」
「別にそんなことないぞ」
凪ちゃんはそのまま自分のグッズをかき集めると、1つ1つ丁寧に写真を撮っていった。
「なんか感慨深いかも。こうして自分がグッズ化するのは」
「そうだね。なんかちょっと不思議な感じするでしょ」
「うん」
そういうと、無骨な椅子に座った凪ちゃんは優しそうな目つきで自身のグッズを見つめていた。
「これってもらえますか?」
「ああ、販売開始したら送るよ。っていっても、発送手続きは私じゃないけど……」
販売開始時にはもう既に私は静岡に戻っているはずだから、発送手続きを行うのは東京にいる社員さん。
静岡に行っても本社の仕事は回ってくるだろうけど、本当に配信者っぽく生活が変わってしまうかもしれない。元々裏方だったし、私としては今も裏方として働いているという気持ちの方が強いのだが。
2人でこの後どうするかなどの雑談をしていると、会議室の扉が勢いよく開いた。
「汐ちゃーん!」
「あ、香織。おはよ」
「うんおはよ。凪ちゃんもおはよ~!」
「おは~」
「でさでさ~、私百合ちゃんとコラボすることになったからちょっと百合ちゃん家いってくるね!」
「おお、了解。モデレーターは?」
「百合ちゃんのマネが」
「おっけ~。じゃあ百合ちゃんによろしく」
「はーい!」
どうやら香織は今日この後から鷹治百合とコラボ配信をするらしい。せっかく東京にいるんだし、こうやってオフコラボをするのは良いことだ。
私と香織はコラボするときにセットになっていることが多いが、別にセットにしないといけないわけではもちろんないのだ。
香織は桜木つぼみという1人のVTuberで、私もVTuberの時には茶葉という1人のVTuber。
茶葉って言う名前はVTuberぽくないけど、単体でコラボすることもあるはずだ。
今まで単体コラボはやったことないかも?
もしかしたらやったことがあったかもしれないけど、パッと思いつくのがない。
香織はひらひらと手を振るとさっさと会議室を出て行った。
「どうする? 何かする?」
「そうだね……、配信しても良いけど正直昨日夜遅くまで律ちゃんとコラボしてたから、疲れが……」
「最近活動再開だもんね! じゃあ今日と明日ちょっと私に付き合ってよ!」
「いいよ」
「あ、明日はかおりんも一緒だから、声かけとくね!」
「え? なにするの?」
「明日のお楽しみ! あ、今日の夜から出発だからね!」
どうやら凪ちゃんは私と香織を連れてどこかに行きたいらしい。
今日の夜から出発するから、キャンピングカーを出してほしいとのことだったが、生憎私は東京の道を運転したいとはあまり思わない。
そのため、サクッと香織に連絡を入れておく。
「香織も良いって」
「おっけ~」
すぐに連絡が来て、今日の夜運転してくれるとのことだった。
「凪ちゃんは運転出来ない?」
「あー、一応持ってるんだけど島でしか運転したことないから……。船だったらいけるんだけどね!」
「船はないかなぁ……」
凪ちゃんは島で軽トラックを運転しているらしい。ただ、島の外で運転をしたことがほとんどないらしく、仕事で軽トラックを使う以外は原付で移動しているらしいので、運転はしたくないとのことだった。
彼女は漁師でもあるため、船舶の操縦免許も持っていて、そっちならお茶の子さいさいらしい。
「じゃあ適当に時間潰して、夜になったら出発で」
「了解」
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